胃酸の逆流、胃食道逆流症、逆流性食道炎

胃酸が込みあがって、胸がムカムカするような症状を経験したことはないですか?

胃酸が逆流する症状のことを胃食道逆流症といいます。本来、胃酸は胃のなかで働くべきなのですが胃酸が逆流することで生じます。胃酸の逆流によって食道に炎症が生じれば逆流性食道炎といい、それが繰り返されることで食道の細胞が胃の細胞にかわっていくことをバレット食道といい、食道がんのリクスといわれています。

Q1
胃腸は強い?弱い?
目次

目次

  1. 胃酸が逆流する要因
  2. 食生活、生活習慣は関係するの?
  3. 西洋医学で使われる薬
  4. 胃酸分泌抑制薬はやめづらい?
  5. 漢方から考える胃食道逆流症
  6. 胸やけ、みぞおちのつかえた感じ、胃弱、消化不良の方
  7. 胃腸が弱い、消化不良、食欲不振のある方
  8. イライラ、不安のストレスからくる胃痛、胃酸過多の方
  9. 不安神経症、気分がふさぐ、のど・胸につっかえる感じがある方

胃酸が逆流する要因

1番の原因は食道と胃の境目の筋肉(下部食道括約筋:LES)が衰えることで胃酸を胃の中に留めることができず、胃酸の逆流が起こります。筋肉の締まりが悪くなることで胃酸が戻りやすくなるのです。肥満や便秘の腹圧が上昇しやすい状態でもなりやすいとされています。

食生活、生活習慣は関係するの?

食道と胃の境目の筋肉(下部食道括約筋:LES)の圧を低下させるものとして、タバコ、チョコレート、炭酸飲料、右側臥位(体の右側を下にして寝る)があります。酸暴露時間を延長するものにはさらにアルコールと脂肪食が加わります。反対にLES圧を上昇させ、胃と食道の締まりを改善する行為に左側臥位があります。

右側臥位と左側臥位という、寝るときの体勢で胃酸の戻りやすさが異なります。胃は左側に大きなスペースがある臓器です。そのため左側臥位(左側を下にして寝る)と胃酸が収まるスペースも広く、逆流しにくくなります。しかし右側臥位(右側臥位)だとスペースがなく、逆流しやすくなります。寝る体勢を変えるだけで胃酸の逆流のしやすさが変わるため一度試してみてもいいかもしれません。

胃酸逆流症のガイドラインには“実際に症状を改善させる行為は体重減少と頭側挙上”と記載もあり、体重を落とすことも胃酸が逆流しくくなります。

西洋医学で使われる薬

胃食道逆流症において第一選択薬はPPI(proton pump inhibitor)というプロトンポンプ阻害薬となっています。プロトンポンプというのは胃酸を出す、胃の壁細胞の胃酸の出す機構のことでPPIはこれを強く抑えます。

胃酸の出すぎが抑えられれば、胃酸が減り、逆流すると感じる回数は減ります。

胃酸分泌抑制薬はやめづらい?

車で例えると、胃酸が出すぎているのはアクセルが過剰にかかっている状態です。お薬で強制的にブレーキをかけてあげることでアクセルが空ぶかしになるのを防ぎます。

有名なものにファモチジン(ガスター)、ランソプラゾール(タケプロン)、エソメプラゾール(ネキシウム)、タケキャブ(ボノプラザン)などがあります。逆流性食道炎でもよく使用されます。

胃酸を抑える強さ ボノプラザン>エソメプラゾール、ランソプラゾール>ファモチジン

これらの薬は胃酸を強く抑えるブレーキの役割となります。
しかし人間の体はよくできており、本来は胃酸を出すアクセルがかかっているはずなのに、お薬によってブレーキが踏まれていると身体はどんな反応をするでしょうか?

出ているべき胃酸が分泌されていないため、より過剰にアクセルを踏み胃酸を出そうとします(高ガストリン血症)。それでもお薬によって強力なブレーキがかかっているため、体の中ではアクセルが踏み込まれていても胃酸の分泌はされません。

お薬をずっと飲んでいれば問題ありませんが、アクセルを踏み切った体の状態でブレーキとなるお薬をやめるとどうなるでしょうか?

ブレーキがなくなると再び胃酸が分泌されることが予想できます。実際にPPIをやめると症状が再発する方がほとんどです。

漢方から考える胃食道逆流症

胃酸の逆流という症状には胃・脾・肝が関わっています。

“胃は受納を主る”といい、食べたものを受け入れる部位となります。

“胃は腐熟を主る”といい、簡単な食べ物の分解をしていることを示しています。

“胃は降を以って順となす”といい、胃は消化したものを次の臓腑へと下向きに働いています。胃の下向きに送る機能が失調すると、上ベクトルに働くため嘔吐・吐き気、胃食道逆流症となります。

漢方において脾は西洋医学での脾“臓”と異なり、広い意味では消化吸収機能のことをあらわし、胃と表裏をなしています。

“脾は運化を主る”といい、食べたものを吸収し、全身へ栄養を送っていることを示しています。脾の運化が働ないということは胃腸が消化吸収できていないことになります。

肝と脾は働きを密にしており、肝は筋肉の細かい動きをコントロールしています。こむら返りの筋肉のけいれんに芍薬甘草湯をつかいますが、芍薬が肝を平らにすることで筋肉の痙攣を緩和します。細かい筋肉の動きは消化管を動かしている筋肉にも同じことが言えます。脾と肝で動きの連携ができていなければ、胃腸が正常に動かず、胃酸の逆流にもつながります。



胸やけ、みぞおちのつかえた感じ、胃弱、消化不良の方

胃は下向きにものを送っています。胃の働きが悪くなり、胃に熱がこもると胃は下向きベクトルへ機能しなくなります。胃が上向きに働くと、胃液の逆流・胸やけ・吞酸・胃酸の上昇などが起こります。

胃と脾は表裏の関係になっており、胃と脾は連動して機能することで食べ物を消化・吸収します。胃に熱がこもり、脾がそれを冷すことができないときは脾胃の協調がうまくいっていません。胃の熱、脾の冷えがせめぎ合うことで、胸・みぞとちのつかえ、下痢・軟便となることもあります。

半夏瀉心湯には黄連が入り、胃の熱をとってくれます。
乾姜が入り、お腹を温めてくれます。
黄連の苦味と乾姜の辛味にて辛開苦降し、胸・みぞおちのつかえをとり、胃腸の調子を正常に戻します。

半夏瀉心湯は黄連・乾姜が入ることで、胸・みぞおちのつかえ、胸やけ・胃酸の逆流のある胃弱の方に向いています。半夏瀉心湯は寒熱のバランスのとれた漢方薬であるため、冷えの症状があっても、熱感の症状があっても使うことができ、使いやすい漢方薬といえます。

胃腸が弱い、消化不良、食欲不振のある方

漢方の考えでは脾胃が消化吸収をつかどっています。脾胃の働きが弱ければ消化吸収ができず、消化不良となり、結果として胃酸の逆流にもつながります。六君子湯は脾胃の気を補ってくれる代表的な漢方薬です。

六君子湯は消化管運動亢進作用、食欲増進作用があることは研究で解明されており、漢方薬のなかでも効果発現の作用機序がきちんとわかっています。

六君子湯には人参が入っており、気を強く補ってくれます。
陳皮・半夏という生薬も入っていることから六君子湯は日本人に向いた漢方薬といわれています。

日本は湿度が高く、ジメジメしており、その影響を身体が受けます。六君子湯には陳皮・半夏という湿気を追い出す生薬が入っています。胃に水が溜まってチャポチャポとなる、水が多い状態には六君子湯が向いています。

胃腸の弱い、消化不良、食欲不振によく使用されるのが六君子湯です。人参が入った漢方薬で気を補う漢方薬として代表的なものになります。胃腸の弱い方で、食欲がなく、疲れ易く、貧血性で手足が冷えやすい方の胃炎、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛には六君子湯です。

イライラ、不安のストレスからくる胃痛、胃酸過多の方



漢方では胃腸の動きは肝の影響を受けます。肝が細かい筋肉の動きをコントロールしているからです。

肝はイライラ・不安の精神症状に大きく影響を受ける臓です。
仕事やプレゼン前、試験のまえにお腹が痛くなることがありませんか?
ストレスが肝の疏泄を失調し、脾に影響を与えた結果です。

イライラ・不安のストレスからくる胃痛、胃酸過多には気のめぐりを改善する四逆散をつかいます。

四逆散は気を動かす生薬で構成されています。
枳実はダイダイの未熟果です。破気薬としてつかわれ、気の鬱滞を解きます。
柴胡も理気薬の代表的な生薬で疎肝します。
芍薬は肝による筋肉のこわばりを平肝し、整えてくれます。

四逆散は胃酸過多の原因となっている気の鬱滞を解いてくれます。

イライラ・不安のストレスからくる胃痛、胃酸過多は気の鬱滞が原因です。気の鬱滞を解き、イライラ・不安のストレスを緩和し、不眠などもあるときいは四逆散が向いています。

さらに便秘がちな方はより気を動かす大柴胡湯が適しています。

不安神経症、気分がふさぐ、のど・胸につっかえる感じがある方

半夏厚朴湯は気分のふさぐ感じ、落ち込み、不安神経症などの不安症状によくつかわれます。

気の滞りがあることで気分のふさぐ感じ、のど・胸のつかえが生じます。

半夏・厚朴・蘇葉が気分を降ろし、のど・胸のつかえを降ろしてくれます。半夏には吐き気を抑える作用もあり、気分の悪さからの吐き気にもつかいます。

不安神経症、気分がふさぐ、のど・胸につっかえる感じがあるときは半夏厚朴湯がおすすめです。

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