男性更年期障害
更年期障害は女性でよく耳にすることがありますが、最近では男性でもあるといわれます。
中国語では男性更年期総合症といいます。症状としては、身体的には全身の疲労感や倦怠感、性欲低下、ED(勃起障害)、不眠、肩こりなど、精神的には気力の衰え、集中力の低下、イライラ、抑うつなど、症状は多岐にわたります。
原因
男性ホルモンの低下が要因の1つともいわれているが、“男性更年期障害”として考えた場合は幅広く精神的なものも影響してきます。
日本泌尿器科学会『LOH症候群診療の手引き』には“前期更年期の患者はストレス性心身症症状の割合が多く,後期更年期から熟年期では主としてアンドロゲン減退症状が前面に出てくる場合が多い。このように男性更年期障害は病態が複雑で,一様に加齢によるアンドロゲンの低下のみで説明できないことが多い。”と、ストレス性のものと、アンドロゲン(男性ホルモン)の減少によるものが多いとしています。
漢方的な考え方
男性更年期障害の主な原因は腎と考えます。腎気が徐々に衰少し、精血が枯渇していき、腎の陰陽の失調となります。腎陰・腎陽は各臓腑の根源であり、腎陰・腎陽の失調によって臓腑が機能せず、男性更年期障害としてあらわれます。漢方における虚労、心気、不寐、鬱証などの範疇に入ります。
腎陰虧損
天癸不足、真陰虧損、過労によって陰精が枯渇し、陰が陽をおさめることができず、陰虚内熱し、更年期症状があらわれる。また腎水不足によって肝木を養うことができず、肝腎陰虚、陰虚陽亢も呈す。
腎陽虚衰
陽気不足、あるいは性交に勤しみ、精気を損傷し、命門の火が弱り、動力不足から更年期となります。
腎陰陽両虚
腎気がもとから弱く、あるいは陰の損傷が陽に及び、もしくは陽の損傷が陰に及び、腎の陰精・陽気がともに不足し、発症します。
腎精虧虚
56歳のころ、先天の精が不足し、あるいは久病によって精が消耗し、腎精まで虧損し、すなわち天癸が早竭、生化の源の髄を失い、骨を失い、脳海空虚、早く年老いたように見え、性の減退からも更年期となります。
治療にあたっての特徴
年齢
男性更年期は55歳から65歳の間に多い
虚実
主な病機は腎精虧虚であり、虚が主であり、本虚標実である
寒熱
男性更年期において冷えの症状は腎陽の虚衰によるものが多く、熱の症状は陰虚内熱によるものである。虚は腎精の虧虚によるもので、実証の多くは肝鬱気結によるものである。肝鬱脾虚のように、男性更年期は虚実錯雑を呈するものあり、弁別する必要がある。
治法
陰虚内熱のタイプ
身体は痩せ、潮熱、盗汗、五心煩熱(手足胸のほてり)、咽乾、頬が紅く、腰膝がおもだるく、めまい、耳鳴り、失眠多夢、早泄遺精、熱から小便黄色く、舌質紅、苔少なく、脈細弦。
治法 滋陰降火
方剤 知柏地黄丸加減(知母・黄柏・生地黄・熟地黄・山薬・山茱萸・牡丹皮・亀板・五味子・麦門冬)→知柏地黄丸は市販でもあります(Amazonで詳細を見る)。
知母・黄柏:滋陰瀉火
生地黄・熟地黄・山薬・山茱萸・牡丹皮:滋補肝腎・填精補髄・補腎陰
麦門冬・五味子・:補腎納気・渋精斂汗
加減法 盗汗があるときは滋陰斂汗の地骨皮・竜骨・牡蛎をくわえる。陽痿(ED)・早泄(早漏)が顕著のときは固腎気の巴戟天・金桜子・莵絲子を加える。
腎陽虧虚のタイプ
精神倦怠、横になりたがる、腰膝のだるさ・痛み・冷え、寒いのを嫌がり、暖かいものを好む、体力が持たない、性欲減退、陽痿あるいは早泄、顔色白く、あるいは軽度浮腫、舌質淡、白苔、脈沈弱。
治法 温補腎陽
方剤 右帰丸加減(熟地黄・山薬・山茱萸・枸杞子・鹿角膠・莵絲子・杜仲・当帰・桂皮・附子)→市販でれば八味地黄丸が近い漢方薬となります(Amazonで詳細を見る)。
桂皮・附子・鹿角膠:温補腎中之元陽
熟地黄・山茱萸・山薬・枸杞子:滋陰益腎
莵絲子・杜仲:強腰益腎
当帰:養血補虚
加減法 小便清長のときは固腎縮尿の金桜子・芡実を加える。大便稀溏のときは温腎補脾の白朮(炒)・補骨脂・肉荳蔲を加え、脾陽を奮い立たせる。陽痿・早泄が顕著のときは壮陽固腎の巴戟天・金桜子・芡実を加える。
腎陰陽両虚のタイプ
めまい、耳鳴り、失眠、健忘、悲喜無常、急なほてり、汗、寒冷を嫌がり、浮腫、便溏、腰膝がおもだるく、性欲減退、舌質淡、薄苔、脈細数。
治法 調補腎陰腎陽
方剤 二仙湯加減(淫羊藿・仙茅・巴戟天・当帰・知母・黄柏)
淫羊藿・仙茅・巴戟天・当帰:温養肝腎
黄柏・知母:瀉陰火・滋腎保陰
加減法 便溏腹瀉のときは健脾渋腸止泄の白朮(炒)・補骨脂・茯苓を加える。腰痛が顕著なときは壮腎補腰の杜仲・狗脊を加える。
腎精虧虚のタイプ
性は減退し、髪は抜け、歯は揺れるようになり、めまい、耳鳴り、健忘恍惚、精神がにぶく、足が衰え無力、動きも遅く、舌質淡紅、脈沈細無力。
治法 補益腎精
方剤 六味地黄丸合亀鹿二仙膠加減(熟地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮・亀板膠・鹿角膠・枸杞子・人参)
熟地黄:滋陰補腎・填精益髄
山茱萸:滋養肝腎・渋精
山薬:補益脾陰・固精
沢瀉:泄腎利湿・熟地黄の膩滞を防ぐ
牡丹皮:清肝瀉火
茯苓:淡滲脾湿
亀板膠・鹿角膠:滋陰養陽・補元気・填精血
加減法 陽痿のときは補腎壮陽の陽起石・淫羊藿を加える。自汗の多いときは斂汗の牡蛎・竜骨を加える。
心腎不交のタイプ
心煩不寧、健忘多夢、心悸、むなさわぎ、腰膝おもだるく、遺精、陽痿、五心煩熱(手足胸のほてり)、盗汗、舌質紅、苔薄黄、脈細数。
治法 滋陰降火・交通心腎
方剤 交泰丸合天王補心丹加減(黄連・桂皮・丹参・党参・玄参・当帰・天門冬・麦門冬・茯苓・五味子・遠志・柏子仁・生地黄)→天王補心丹(Amazonで詳細を見る)
黄連:清心瀉火・桂皮の引火帰源を助ける
天王補心丹:滋陰養血・補益心気・寧心安神
加減法 遺精・早泄のあるときは渋精止泄の金桜子・芡実・益智仁を加える。盗汗、自汗のあるときは滋陰斂汗の亀板・牡蛎・竜骨を加える。
腎気不固のタイプ
面白、神疲、聴力減退、腰膝おもだるく、小便頻数清、あるいは尿のあとの残りを出し切らず、あるいは遺尿、小便失禁、あるいは夜間頻尿、滑精早泄、舌質淡、白苔、脈沈弱。
治法 補腎固渋
方剤 金鎖固精丸合縮泉丸加減(沙苑子・芡実・蓮肉・蓮鬚・竜骨・牡蛎・山薬・烏薬・益智仁)
沙苑子:補腎固精
蓮肉・芡実:益腎固精
蓮鬚・竜骨・牡蛎:渋精
縮泉丸(烏薬・益智仁):温腎祛寒・縮尿止遺
加減法:大便溏薄のときは温運脾陽の補骨脂・白朮(炒)を加える。
心脾両虚のタイプ
心悸、むなさわぎ、恐れやすく、不安、多疑善慮、失多眠、健忘、めまい、面色痿黄、食欲不振、腹脹便溏、神疲、舌質淡、白苔、脉細弱。
治法 養心健脾・補血益気
方剤 帰脾湯加減(紅参・白朮・黄耆・当帰・炙甘草・茯苓・遠志・木香・酸棗仁・龍眼肉・大棗・生姜)→近いものに加味帰脾湯があります(Amazonで詳細を見る)
紅参・白朮・黄耆・茯苓・甘草:益気補脾
当帰・龍眼肉:補血養心
茯苓・酸棗仁・遠志:寧心安神
木香:理気醒脾
加減法 失眠多夢のときは清熱鎮静安神の蓮子心・竜歯・珍珠母を加える。
肝鬱気滞のタイプ
情志抑鬱あるいは急躁易怒、胸脇に脹満・痛み、よく深呼吸をし、胃の失調、お腹の張り、便溏不爽、腸鳴、放屁、あるいは腹痛欲瀉、瀉後痛減、舌質淡、薄白苔、脈弦。
治法 疎肝解鬱・健脾和営
方剤 逍遙散加減(当帰・芍薬・柴胡・茯苓・白朮・炙甘草・煨姜・薄荷)→近いものに加味逍遙散があります。(Amazonで詳細を見る)
当帰・芍薬:養血柔肝
柴胡:疎肝解鬱
白朮・茯苓・炙甘草:健脾助運
煨姜・薄荷:助解鬱和中・散肝鬱の熱
加減法 肝鬱化火のときは牡丹皮を加える。
男性更年期でも、、、
ほてりが気になる方は知母・黄柏で冷やす知柏地黄丸がオススメです。
冷えが気になる方は附子・桂皮で温める八味地黄丸がオススメです。
不眠、不安感が気になる方は気血を養う天王補心丹がオススメです。
食欲不振、お腹が緩い、不眠が気になる方は加味脾気湯がオススメです。
イライラ、抑うつがある方には加味逍遙散がオススメです。