お腹の冷えによる腹痛、胸焼け、胃炎の消化器症状にはどんな漢方薬がいいの?

安中散

胃薬でよく使用される安中散です。消化器症状がみられる場合、医療用ではPPI、H2ブロッカーなどの胃酸の出すぎを抑える薬が頻用されており、病院でもらうことは少ないですが市販薬としては多く使用されているため解説します。太田胃散でよく知られる“太田漢方胃腸薬Ⅱ”は安中散+茯苓の構成で、“大正漢方胃腸薬アクティブ”は安中散+四逆散の構成になっています。

目次

効能又は効果は?

ツムラの添付文書には「やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー」と記載があります。

何が入っているの?

桂皮・延胡索・牡蠣・茴香・甘草・縮砂・良姜の7種類です。

桂皮:散寒止痛

桂皮は風邪に使う葛根湯にも配合されているように温める生薬です。安中散は冷えがお腹に入り、痛みを生じているため桂皮にて温め、気を通します。

延胡索:活血・行気止痛

延胡索も温める生薬であり、気と血の流れを改善します。「不通則痛:通じざれば則ち痛む」という言葉があるように冷えがお腹に入ることで気血の流れが滞ると痛みが生じます。気滞・血滞の流れを延胡索にて改善し、止痛に働きます。そのため原典には『婦人の血気刺痛、小腹より腰に連なるを治す』とも記載があります。

牡蛎:制酸

牡蛎というのは字の通りカキの貝殻のことです。牡蠣は炭酸カルシウムを豊富に含み胃酸を中和します。

茴香:散寒止痛・理気和胃・温脾開胃

茴香は西洋はフェンネルと呼ばれ、スパイス・ハーブとして使用されます。スパイスとして使われていることからも温性で香りが良く、その芳香にて胃が開き、食が進むようになります。

縮砂(しゅくしゃ):行気止痛・消食・開胃止痛

縮砂はショウガ科であることからも芳香が強く、温める生薬です。吸い込むとスーっとするような清涼感のある香りにて気を巡らせ、醒脾作用にて胃腸症状を改善します。

良姜:散寒止痛・温中止嘔

良姜もショウガ科の植物の根茎です。辛熱の生薬にて、辛味よりも熱が強く、生姜に比べて散寒の作用が強く、裏をよく温めます。

効果のまとめ

安中散に配合されている生薬は牡蛎を除き、すべて温性の生薬です。原典によるとお腹に冷えが入り込み、口に胃酸が出たり、吐き気、お腹に張りや刺すような痛みがあるときに使用されています。そのことからも桂皮・延胡索・茴香・甘草・縮砂・良姜にて温め、芳香にて気の流れをよくし、消化器症状を改善します。

ほかの漢方薬との違いは?

胃薬として使用される漢方薬にはほかに黄連解毒湯、半夏瀉心湯、平胃散、加味平胃散、茯苓飲、六君子湯、香砂六君子湯、開気丸、参苓白朮散、半夏厚朴湯などがあげられます。

漢方比較詳細

まず安中散温める生薬から構成されているように舌が白く冷えているときなどに向いていると考えられます。

それに対し、黄連解毒湯は黄連・黄芩の清熱といわれる冷やす生薬から構成されています。つまり胃炎でも熱をもったものが使用の対象になります。舌は赤くなっているなど熱の症状の判断が必要となります。安中散は冷えによる症状に対し、黄連解毒湯は反対の熱の症状です。黄連解毒湯は市販のパッケージには“胃炎”“二日酔い”などの記載がありますが、それが冷えから来ているのか、熱からきているのか判断が必要です。

半夏瀉心湯も消化器症状があるときによく使用される方剤です。安中散は冷えに使い、黄連解毒湯は熱に使うのに対し、半夏瀉心湯は寒熱どちらにも使用できます。『傷寒論』からつくられる方剤で原典では、心下痞と言うみぞおちの辺りに痞える(つかえる)症状やお腹がゴロゴロ鳴るときに使用されています。半夏瀉心湯は寒熱どちらにも使用されると説明しましたが、簡単にいえば胃に熱をもち、脾が冷えている状態につかわれています。胃熱と脾寒がせめぎ合い、天気でいう寒熱の前線同士がぶつかり合うことで腸鳴、心下痞となります。そういったときに使用するのが半夏瀉心湯であり、寒熱どちらにも対応できるため幅広い方に使用できます。

平胃散は文字の通り“胃を平じる散”ですが、水湿による影響が大きいときに使います。蒼朮・陳皮の燥湿の生薬がつかわれており、水湿を取り除いてあげることで胃腸の働きをよくします。

加味平胃散は平胃散に神麴・麦芽・山梔子が加えられたものです。神麴・麦芽は穀物類の消食を助け、山査子を肉類の消食を助けます。神麴・麦芽・山査子の組み合わせは保和丸という食積につかう方剤にも配合されており、これらを加味することで消導を強化したものが加味平胃散です。

茯苓飲は『金匱要略』に記載がある漢方薬であり、「茯苓飲、治心胸中有停痰宿水、自吐出水後、心胸間虚、気満、不能食、消痰気、令能食。」と書いてあることからも“虚”があることによって“停痰宿水”の状態になっています。そのため茯苓飲には人参が配合されており、人参にて気を補うことで胃腸の働きを改善し、枳実・白朮にて枳朮湯の組み合わせにて心下に溜まった水を降ろします。

六君子湯は病院でもよく使用される漢方薬の1つです。茯苓飲と同じくこちらも人参が配合されており、気を補ってくれる方剤です。気が不足していると水・痰飲の処理するも能力が落ち、身体に湿というヌメリが溜まっていきます。日本は多湿の気候からも湿をため込みやすく、農耕などで身体を動かす機会が減り、汗もあまりかかなくなったことからより一層湿をため込みやすい傾向にあります。六君子湯は人参にて気を補うとともに、湿をさばく半夏・陳皮も入っており、補気と化痰を兼ねつかいやすい方剤です。そのため舌をみるとベタッとした白い苔がついていることが多いです。茯苓飲は水飲の停滞に対し、六君子湯は湿をさばきます。

香砂六君子湯は六君子湯に香附子・縮砂・藿香を加えたものです。さきほど説明したように六君子湯は気を補うとともに湿をさばく方剤です。しかし湿の停滞が重たく、動きが悪い場合には芳香の生薬を追加する必要があります。漢方薬は香りも大事といいますが、香附子・縮砂・藿香の香りにて気や水湿を動かす力を足したものが香砂六君子湯です。

開気丸はイスクラという会社からでている漢方薬です。芍薬・厚朴・陳皮・延胡索・縮砂・木香・欝金・枳実・茯苓・白豆蔲・沈香・川楝子からつくられている丸剤の漢方薬です。縮砂・木香・欝金・白豆蔲・沈香は芳香のある生薬で嗅ぐとスーッとすっきりするような香りをもっています。これらの芳香にて胃を開き、芍薬・厚朴・枳実・茯苓・川楝子にて気・水を下へ降ろし、巡りを改善します。香りの生薬がこれだけ多く配合されている漢方薬は少なく、気の停滞による吐き気やお腹の張りがあるときには最適な方剤です。

参苓白朮散は人参・山薬・甘草・白朮・薏苡仁・茯苓・扁豆・縮砂・桔梗・蓮肉から構成されています。人参が入っていることからも気を補う構成であり、それだけでなく泥状便などのお腹が緩いときに使用されます。山薬・薏苡仁・扁豆・蓮肉は脾胃を補うともに除湿の効果があり、軟便傾向を緩和します。縮砂にて脾気を通し、補気薬による膩滞を緩和します。桔梗は上ベクトルの生薬であり、陽気を上へ持ち上げます。

半夏厚朴湯は“神経性胃炎”に使わるように蘇葉(シソの葉)の芳香にて気鬱を発散し、原因不明の違和感を緩和します。

以上を簡単にまとめると、胃の症状でも

冷えであれば安中散

熱であれば黄連解毒湯

寒熱錯誤であれば半夏瀉心湯

水湿であれば平胃散(加味平胃散)

虚にともなう水飲であれば茯苓飲

虚にともなう水湿であれば六君子湯(香砂六君子湯)

気の鬱滞が強いときは開気丸

軟便も伴うときは参苓白朮散

精神からくるものであれば半夏厚朴湯

処方箋でもらう薬とドラッグストアで売っている薬はどう違うの?

処方箋でもらうときツムラが多いので、ツムラにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。

 

ツムラ5 7.5g(3包)中には、、、

日局ケイヒ      4.0g
日局エンゴサク      3.0g
日局ボレイ      3.0g
日局ウイキョウ    1.5g
日局カンゾウ     1.0g
日局シュクシャ    1.0g
日局リョウキョウ   0.5g

医療用のメーカーごとの違いは?

大手3社(ツムラ、クラシエ、コタロー)の生薬量を比較してみました。3社ともに使用している生薬量は同じでした。

ドラッグストアで購入できるものとの違いは?

ドラッグストアで売られている市販のものにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。

ツムラ漢方

こちらは一般用医薬品のツムラです。生薬の1日量では医療用の半分となっています。

大正漢方胃腸薬

こちらは安中散にお腹の痛みを抑える芍薬甘草湯を合方したものになります。安中散にて冷えをとり、芍薬甘草湯にて痛みをとり、相乗効果が期待できます。一見すると安中散の生薬量が少ないようにも見えますが、大正漢方胃腸薬では医療用で使われるようなエキス抽出をせず、生薬をすりつぶしてつくられています。エキス顆粒は生薬を煎じ、抽出した液を顆粒に形作るために加工の際、熱が加えられ、精油成分が飛びやすいといわれています。そのため本来の漢方薬よりも劣っているといわれますが、大正漢方胃腸薬はエキス顆粒ではなく、生薬をそのまま粉砕することで精油成分が薄くなることなく、香りも残りやすい設計になっています。顆粒だけでなく錠剤タイプもあるので粉が苦手な方にはオススメです。

太田漢方胃腸薬Ⅱ

太田漢方胃腸薬は安中散加茯苓ががはいっています。茯苓というのは利水安神の生薬でお腹に溜まっている余計な水を出し、それとともに安神作用もある生薬です。安中散に茯苓が入ることで相乗効果を期待できます。太田漢方胃腸薬Ⅱは製法もこだわりがあり、生薬をすりつぶした末とエキス顆粒が合わさって入っています。前述にもあるように、エキス顆粒にすると精油が飛び、効果が弱くなる恐れがありますが、顆粒にすることで飲みやすく、溶けやすくなる特長があります。太田漢方胃腸薬Ⅱでは粉砕した生薬の精油をしっかり残しつつ、エキス顆粒も一緒に配合することで飲みやすく溶けやすくなるように工夫されています。表に記載しているのは原末とエキス顆粒の分を合計した量です。生薬の量もしっかり入り、生薬をそのまま粉砕した末もはいっている太田漢方胃腸薬Ⅱが個人的には好きです。

 

お腹に冷えがあるときの腹痛、胸焼け、胃炎の消化器症状には安中散です。

 

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