越婢加朮湯
この漢方薬はとても幅広い症状に使用される漢方薬です。漢字は難しいですが、“えっぴかじゅつとう”と読みます。「金匱要略」という1800年前の書物に記載されている漢方薬です。
一言でまとめると、“冷やし、水を抜く漢方薬”です。
“冷やし、水を抜く漢方薬”と考えると、腫れた熱をもった関節痛には効きそうですね。それ以外にも痛風の発作で熱く腫れているとき、赤く腫れた湿疹やアトピー、ニキビ、水を抜く作用から鼻炎、花粉症にも使用されます。花粉症の漢方薬で有名な小青竜湯よりも効果があったという報告もあります↓。
https://ci.nii.ac.jp/naid/10025975131
小児においてリンパ管腫に使用されることもあります↓。
https://ci.nii.ac.jp/naid/130005251419
効能又は効果は?
添付文書には「腎炎、ネフローゼ、脚気、関節リウマチ、夜尿症、湿疹」と記載されています。
“冷やし、水を抜く漢方薬”のため、浮腫みの症状を緩和するため、腎炎、ネフローゼの記載があると考えられます。脚気、関節リウマチの記載がありますが、リウマチを治すというよりも腫れた炎症を緩和するためだと考えられます。
それ以外にも痛風の発作、湿疹、ニキビ、鼻炎、花粉症にも使用されます。
何が入っているの?
麻黄、石膏、蒼朮、生姜、大棗、甘草の6つの生薬が配合されています。
越婢加朮湯=麻黄+石膏+蒼朮+生姜+大棗+甘草
麻黄:利水作用
マオウ科の植物の地上茎。強い発汗作用を持ち、桂皮と一緒に使用されることでより強い発汗作用を発揮します(麻黄湯)。越婢加朮湯では利水作用を目的として配合されています。麻黄と石膏が組むことで溜まっている水を内側に引き込みます。痛風の発作のように腫れている状態のとき、水を内側に引き込み、浮腫みをとります。
石膏:熱を冷ます(清熱作用)
天然で採取された硫酸カルシウムの塊。天然と書いているのは、効果を発揮する成分が硫酸カルシウムだけではないと考えられているからです。天然の石膏に含まれている微量の何かの成分によって効果を発揮しています。漢方薬に使用される石膏は煎じるとき大量に必要になります。有効成分が微量であるため、たくさんの石膏を煎じる必要性があります。石膏には強力に熱を冷ます作用があります。高熱のときや、脱水状態のときに使用される白虎加人参湯にも配合されています。熱を冷ます作用があるため、熱性の湿疹やアトピーに使用されることもあります。石膏と言えば、冷やすです。
蒼朮:利水作用
蒼朮は利水作用のある生薬で水の代謝異常を改善し、四肢の痛みを緩和します。
生姜、大棗、甘草:胃薬
この3つの組み合わせは胃薬です。これらの生薬が入っていることで長期的に服用できようになっています。
効果のまとめ
熱を冷やし、浮腫みを緩和する作用が越婢加朮湯です。
効能効果に関節リウマチの記載がありますが、その症状に関節痛、関節に熱をもった炎症がおきます。痛風発作も関節に炎症があり、水がたまった状態だからだと考えられます。越婢加朮湯は関節に水が溜まり、熱を帯びているときが向いています。
腎炎、ネフローゼの記載がありますが、腎機能改善作用があるのではなく、症状を改善するからです。ネフローゼの状態になると浮腫んできます。越婢加朮湯でその浮腫みを改善するため、効能効果に記載があると思います。
脚気の記載もありますが、同様に脚気になると浮腫みの症状がでてくるのでそれを改善するということです。現在ではビタミンB1欠乏症とわかっているのでそちらで原因から治療することになるので、脚気で越婢加朮湯が使用されることはないでしょう。
湿疹の記載があるのも、熱っぽい、水が多い状態の湿疹であれば効果ありそうですね。全ての湿疹、関節痛に効果があるのではなく、患者さんの状態によって漢方薬を使いわける必要があります。
漢方薬の違いは?
・麻杏甘石湯と越婢加朮湯の違い
どちらにも麻黄、石膏が入っているため、浮腫みを改善する目的は同じです。越婢加朮湯には生姜、大棗、甘草の胃薬がはいっているため、麻杏甘石湯よりも長期的に服用することが可能です。
・桂枝加朮附湯と越婢加朮湯の違い
桂枝加朮附湯を構成している生薬をみると温める生薬ばかりです。冷えによって痛みが増すような痛み、温めることで痛みが和らぐような症状の時は相性がいいです。それに対し越婢加朮湯を構成している生薬をみると全体的には温めるものが多い印象がありますが、注目してほしいのは石膏です!石膏は強力に冷やす作用があります。越婢加朮湯はパッと見では温めるような気がしますが、石膏が入っているため、冷やす漢方薬になります。越婢加朮湯は熱をもった関節の痛みに使用されます。どちらも関節痛に使用される漢方薬ですが、温めるものと冷やすもので真逆になるので使用にあたっては注意が必要です。
・防已黄耆湯と越婢加朮湯の違い
どちらも関節痛に使用されますが、防已黄耆湯は体力がなく、色白で水太りの方に使用されます。そういった方の浮腫み、関節の腫れがあれば越婢加朮湯よりも防已黄耆湯が適しています。
処方箋でもらう薬とドラッグストアで売っている薬はどう違うの?
処方箋でもらうときツムラが多いので、ツムラにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
ツムラ28 7.5g(3包)中には、、、
日局セッコウ 8.0g
日局マオウ 6.0g
日局ソウジュツ 4.0g
日局タイソウ 3.0g
日局カンゾウ 2.0g
日局ショウキョウ 1.0g
医療用でのメーカーの違いは?
医療用の漢方薬のメーカーの違いを調べてみました。越婢加朮湯はツムラ、コタロー、あとはJPSという3社から販売されています。その中でも大手のツムラとコタローに使用されている生薬の量を比較してみました。
コタローの方がショウキョウ(生姜)の量がやや少ないだけで、構成生薬の量はほぼ変わりありませんでした。
ドラッグストアで購入できるものとの違いは?
ドラッグストア(市販)で売られているものにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
市販では取扱いは少ないようです。
一元 越婢加朮湯
日局 ショウキョウ末:2.9g、日局 カンゾウ末:1.9g、日局 ビャクジュツ末:3.9g、別紙規格 マオウ末:5.9g、別紙規格 セッコウ末:7.9gが100錠中に含まれているとのことであり、生薬量はだいぶ少なくなります。錠剤タイプなので、粉が苦手な方でも服用しやくなっています。
JPS 越婢加朮湯
1日量で日局マオウ:4.5g、日局ショウキョウ:3.0g、日局カンゾウ:2.5g、日局セッコウ:15.0g、日局タイソウ:3.0g、日局ビャクジュツ:4.5gが配合されています。
市販で手に入るものの中で1番生薬量が多いです。麻黄の量は医療用のツムラに劣りますが、石膏の量が倍近く使用されており、熱感が強ければ市販のJPSがいいかもしれません。こちらも錠剤タイプとなっており、粉が苦手な方でも服用しやすくなっています。
熱を帯びた腫れには越婢加朮湯です。花粉症で使用するのであれば、同じように麻黄と石膏の組み合わせが配合されている五虎湯、麻杏甘石湯でもいいかもしれません。