補中益気湯
疲れやすい、気力、体力、食欲が落ちたとき、疲労倦怠、食欲不振によく使用されます。中気下陥という気が落ち込んだときの代表方剤です。医王湯ともいわれます。補中益気湯を一言で説明するなら気を補い、気を上へ持ち上げる漢方薬です。気を上に持ち上げるため胃下垂、痔、子宮下垂の適応もあります。
研究でも以下の作用がわかっています。
病後の体力低下に対する作用
免疫機能低下の改善作用(慢性疾患あるいは感染症が遷延し体力が低下した患者に投与したところ、血液中のnatural killer(NK)細胞活性が上昇した)
・抗癌剤による免疫低下に対する作用(マウスに経口投与したところ、MMCにより低下したNK活性及び骨髄機能が回復した)
慢性疲労に対する効果(慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome)モデルマウスにおいて、低下した運動量を改善した。)
高齢者の体力低下に対する作用(老齢マウスに経口投与したところ、低下したT細胞数、NK細胞数及びヒツジ赤血球(SRBC)抗原に対する抗体産生が回復した)
食欲不振に対する作用(Colon26-L20腺癌誘発悪液質モデルマウスに混餌投与したところ、体重、摂餌量、飲水量、腓腹筋量および精巣周囲脂肪重量の減少ならびに中性脂肪の低下が抑制された)
感冒に対する作用(インフルエンザ感染マウスに経口前投与したところ、生存期間が延長した)
精巣に対する作用(マウスにドキソルビシンと同時並びに前後14週間継続混餌投与したところ、精巣重量の低下が抑制された。)
効能又は効果は?
ツムラの添付文書には「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症」と記載があります。
何が入っているの?
黄耆・升麻・柴胡・当帰・陳皮・人参・白朮・生姜・大棗・甘草の10薬から構成されています。
補中益気湯=六君子湯―茯苓・半夏+柴胡・升麻・黄耆・当帰
黄耆・升麻・柴胡:昇陽
黄耆・升麻・柴胡は全て表へ気を持ち上げる生薬です。黄耆は益気と昇提を兼ねます。升麻は軽く生薬で昇挙します。柴胡も気を表へ持ち上げます。黄耆・升麻・柴胡に知母・桔梗をあわせると昇陥湯という漢方薬になります。
当帰:養血活血
当帰は血を養いつつ、血をめぐらせる活血作用があります。当帰を入れることで少し血分に対する配慮もされています。より血を補いたいのであれば十全大補湯があります。
陳皮:祛痰
脾気の弱さから痰飲が溜まりやすいのを陳皮にて防ぎます。補気の生薬は甘味のものが多く、膩滞になるのを防ぎます。
人参・白朮・生姜・大棗・甘草:補気
この組み合わせに茯苓を足せば四君子湯になるように補気の生薬です。
効果のまとめ
気が不足し、気が落ち込んでしまうと疲れやすくなったり、食欲がなくなったり、体力が落ちたりします。黄耆・升麻・柴胡にて落ち込んだ気を持ち上げ、当帰にて養血、陳皮にて祛痰、人参・白朮・生姜・大棗・甘草にて気を補います。これらの作用から補中益気湯は疲れやすい方、食欲不振の方につかわれるだけでなく、病気の後の体力が落ちた状態にも使用され、“医王湯”ともいわれます。
ほかの漢方薬との違いは?
体力を補う目的で使用される漢方薬の違いについて説明します。
六君子湯
六君子湯は人参が入っており、気を補う作用だけでなく、陳皮・半夏という湿をさばく生薬が入っています。日本は湿気が多い気候で食事も脂っこくなってきており、身体に湿をため込みやすい環境です。胃のムカムカ、もたれがあるときは六君子湯です。
補中益気湯
補中益気湯は気を補い、気を上に持ち上げる漢方薬です。そのため疲れやすさ、食欲不振などの気の落ち込みが関連する状態のときには補中益気湯です。
十全大補湯
十全大補湯は四君子湯+四物湯+黄耆・桂皮から構成されています。そのため補中益気湯よりも血を補う作用が強くなっています。目のかすみ、筋肉のひきつり、顔色が蒼白など血虚の症状があれば十全大補湯が適しています。
人参養栄湯
人参養栄湯は十全大補湯から川芎を抜き、遠志・五味子・陳皮を加えた構成になっています。五味子にて収斂、陳皮にて化痰、遠志にて心腎交通する作用が強化されています。遠志は“もの忘れの改善”の作用でも販売されています。人参養栄湯はご年配の方であれば全般に使用できます。年齢とともに気血も不足し、心神不寧の症状があれば人参養栄湯です。
処方箋でもらう薬とドラッグストアで売っている薬はどう違うの?
処方箋でもらうときツムラが多いので、ツムラにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
ツムラ41 7.5g(3包)中には、、、
日局オウギ 4.0g
日局ソウジュツ 4.0g
日局ニンジン 4.0g
日局トウキ 3.0g
日局サイコ 2.0g
日局タイソウ 2.0g
日局チンピ 2.0g
日局カンゾウ 1.5g
日局ショウマ 1.0g
日局ショウキョウ 0.5g
医療用のメーカーごとの違いは?
大手3社(ツムラ、クラシエ、コタロー)の生薬量を比較してみました。ツムラだけは白朮ではなく、蒼朮をつかっており、それ以外はメーカーの違いはありませんでした。
ドラッグストアで購入できるものとの違いは?
ドラッグストアで売られている市販のものにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
ツムラ漢方
市販用のツムラです。医療用の半分の生薬量になっています。
クラシエ 漢方セラピー
クラシエの漢方セラピー。こちらは錠剤タイプになっており、粉が苦手な方でも飲みやすい設計になっています!
なんだか疲れやすいと感じた方に補中益気湯