柴胡加竜骨牡蛎湯
不眠、イライラなどの精神症状でよく使用される漢方薬です。神経衰弱という精神が落ち込む症状や、ヒステリーという神経が高ぶる症状にも使えるためうつにも使用されます。論文を調べてるいると更年期障害や男性の更年期障害にも使われることもあるようです。
もともとは『傷寒論』に記載のある漢方薬です。
『傷寒論』での使い方はこちら↓
太陽病107条「傷寒八九日、下之、胸満、煩驚、小便不利、譫語、一身盡重、不可転側者、柴胡加龍骨牡蛎湯主之。」
傷寒になり、8,9日して、下してしまった。そのときに邪が内陥し、三陽全てにて影響が出た場合のことが記載されている。太陽膀胱経にも邪がいるため、膀胱が失調し、小便不利となる。陽明経に入り、譫言をいい、少陽経では胸満(胸脇苦満のこと)、煩驚(イライラして驚きやすい)という症状がでる。三陽に影響がでているため身体がとても重たくなります。
前述のように病位が三陽全てに出ているという捉え方と、少陽三焦経・厥陰心包経に影響が出ているという考え方もある。少陽と厥陰が阻滞されているため、三焦が失調し、水が巡れないので小便がでなくなり、厥陰で鬱した肝火が心へ上がり、脇満・煩驚・譫語の症状がでています。
このような使われ方から元々はうつなどの精神症状でつかっていたのではありません。少陽・厥陰枢機の失調による症状に胸の張り、煩驚(イライラしたり、驚きやすくなり、不安に感じるようになる)があらわれるため、現在はおもに精神疾患で使用されています。
効能又は効果は?
ツムラの添付文書には「比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの次の諸症 高血圧症、動脈硬化症、慢性腎臓病、神経衰弱症、神経性心悸亢進症、てんかん、ヒステリー、小児夜啼症、陰萎」と記載があります。
何が入っているの?
ツムラでは柴胡・桂枝・半夏・茯苓・黄芩・人参・竜骨・牡蛎・大棗・生姜の10薬から構成されています。『傷寒論』には大黄も入っています。
柴胡加竜骨牡蛎湯=小柴胡湯―甘草+桂枝・茯苓・竜骨・牡蛎
柴胡:透邪
三焦の機能が失調していることからも柴胡をもちいて少陽枢機を展開し、邪を表へ透表します。
桂枝:辛散温通
桂枝にて残っている表証を追い出します。
半夏:祛痰
内虚によって生じた痰によって精神症状へ影響を与えているため半夏にて祛痰します。
茯苓:利水
茯苓の利水作用にて水道を通じ、小便を膀胱から排出します。また奔豚病のときもそうですが、水飲が上逆することによって不安やイライラにつながるので余分な水飲を取り除きます。
黄芩:清熱
柴胡加竜骨牡蛎湯が加減される前の処方の小柴胡湯にも入っていますが、内虚とともに膈に熱の鬱滞があるため黄芩にて清熱します。
人参:補気
原典の『傷寒論』にも“下したあと”の内虚に乗じて、邪が内陥しているため人参をもちいて内側を固めます。
竜骨・牡蛎:重鎮安神・定驚
竜骨・牡蠣はどちらも重たく正気を収斂する作用があり、高ぶっている気を下へ落ち着けます。
効果のまとめ
柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡にて少陽枢機を展開し、疎邪外透します。桂枝にて表に残っている邪を追い出し、イライラや不安感に影響を与える過剰な水飲・痰飲を茯苓・半夏にて除きます。黄芩にて清熱します。これらの多様な症状の原因の1つに内虚があるため人参にて気を補い、内を固めます。竜骨・牡蛎には気を鎮める作用があり、イライラ・不安を鎮めます。これらの生薬の組み合わせにてストレスでイライラする方、不安、不眠の方に使用されます。
ほかの漢方薬との違いは?
柴胡加竜骨牡蛎湯はは不眠症、うつ、イライラ、不安感につかわれることが多く、そのときに使われるほかの漢方薬について解説します。
ストレスや不安で眠れないときは?
柴胡加竜骨牡蛎湯は“ストレスや不安で眠れない方”に使用されます。柴胡は疎肝に働き、竜骨・牡蛎にて気を下に降ろします。柴胡が入っているため、“ストレス”と書いてあり、柴胡が気に働き、竜骨・牡蛎の重たい薬にて気を鎮めます。
更年期とのぼせがあるときは?
柴胡桂枝乾姜湯も不眠症、パニック障害やうつなどの精神症で用いられることが多く、柴胡加竜骨牡蛎湯とよく似ています。柴胡桂枝乾姜湯に牡蛎ははいっていますが、竜骨は入っておらず、イライラに対する気を鎮める作用がやや弱いのですが、更年期障害にも使用されることからものぼせの症状がみられるときにはこちらの方が向いています。
不安やのどのつかえ感があるときは?
半夏厚朴湯もよく使用される漢方薬の1つです。不安神経症などにつかわれます。半夏・厚朴・蘇葉・茯苓・生姜から構成されており、蘇葉・厚朴にて行気開鬱、半夏にて降逆します。半夏厚朴湯には枳実のような破気薬ははいっておらず、気や痰の鬱滞をほぐすことで不安神経症を緩和します。不安神経症の方に半夏厚朴湯です。
処方箋でもらう薬とドラッグストアで売っている薬はどう違うの?
処方箋でもらうときツムラが多いので、ツムラにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
ツムラ12 7.5g(3包)中には、、、
サイコ 5.0g
ハンゲ 4.0g
ケイヒ 3.0g
ブクリョウ 3.0g
オウゴン 2.5g
タイソウ 2.5g
ニンジン 2.5g
ボレイ 2.5g
リュウコツ 2.5g
ショウキョウ 1.0g
医療用のメーカーごとの違いは?
大手3社(ツムラ、クラシエ、コタロー)の生薬量を比較してみました。クラシエ、コタローには『傷寒論』に近いように大黄がはいった構成になっています。大黄がはいっていることからも瀉下作用もありますが、カッカとした熱を冷ます清熱作用が付加されており、便秘症状や熱の症状があるときは大黄のはいったクラシエ、コタローがいいかもしれません。それ以外に関しては生姜の量が若干異なるくらいです。
ドラッグストアで購入できるものとの違いは?
ドラッグストアで売られている市販のものにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
PHARMA CHOICE
Amazon限定のブランドになっていますが、はいっている生薬量はこちらが一番多く、パッケージにも満量処方と書いてあります。使われている生薬量で選ぶならこちらがオススメです。
クラシエ
パッケージのデザインはいくつか種類ありますが、入っている生薬量は同じです。錠剤タイプもあるため粉が苦手な方は錠剤タイプがオススメです。
ツムラの漢方
市販用のツムラの漢方薬です。医療用でつかわれる量の半分になっています。
うつやストレスでイライラする方、不安、不眠には柴胡加竜骨牡蛎湯