腎臓として水を担当しているのは西洋と同じですが、それ以外にも重要な役割を担っている臓器です。

目次

・水を主る

西洋医学の考えでも、漢方の世界でも水を担当しているのは同じです。腎の機能が弱くなると、身体の外に出さないといけないものが溜まってしまい、クレアチニン、尿素窒素、カリウム、リンなどの数値が上昇し、腎機能の悪化のマーカーとしてつかわれます。

以下により中医学的な水の巡りを説明します。

腎には腎陰と腎陽があります。腎陰と腎陽があわさり、腎が機能しています。腎陰とは腎が水を蓄えていること。腎陽とはその水を温める能力のことを表しています。以下に水の巡り方の詳細です。

「飲は胃に入り、精気を游溢し、脾により上輸す。脾気は精を散じ、上り肺に帰り(おくり)、水道を通調し、下り膀胱に輸す、水精は四布し、五経に並びめぐる」

腎陽(腎の陽気)によって脾胃が働き、食べ物から水穀の精微として取り込まれます。取り込まれた水液が肺に送り込まれ(脾の昇清作用)、肺から三焦(水やリンパの通り道)を通じ、全身に分布されます(宣散)。その後肺の粛降にて津液が膀胱へ送られます。肺の粛降が機能しなければ、鼻水がでるといった症状もでてきます。

難しいと思いますが、蒸気機関車のイメージです。水を石炭の火力で温め、蒸気にします。その蒸気の力によってピストンが働き、機関車が動きます。まずは十分な火力がないと動くことができないのです。火力である腎陽が虚すると水を巡らせることができなくなります。その結果として水の停滞の症状がでることがあります。そう考えると真武湯が胃腸疾患、胃腸虚弱症、慢性下痢、慢性腎炎などの効能効果があるのも理解できます。水の巡りには腎が重要になるので「腎は水を主る」といいます。

・先天の本

脾が“後天”の本であるのに対し、腎は“先天”の本といいます。脾は食物から栄養を得て、そのエネルギーによって身体が作られ、身体を動かすことができます。生まれた“後”に補充していくため“後天”といいます。腎は“先天”であるため、“生まれ持った”生命エネルギーのことになります。生まれた後、成長していく動力源になるものが腎に蓄えられています。生まれ持った先天の精だけでは生きていくことができないため、絶えず後天の精を補っていきます。

 生まれながらに先天の精が弱く、腎の機能が力不足であれば、成長・発育ができず、発育不良になります。

 年齢とともに先天の精が枯渇し、弱くなってくると筋肉が衰え、骨が衰え、足腰が弱くなり、精力も衰えてきます。いわゆる老化です。老化も先天の精の減弱、腎の衰えと捉えることができます。ご年配の方の頻尿によく八味地黄丸が使用されます。それは年齢とともに腎が衰え、水を蓄えることができなくなったため、補腎剤として八味地黄丸が使用されています。

腎は精と関連があるといいましたが、西洋医学と漢方の世界をオーバーラップさせて考えてみます。男性ホルモンであるアンドロゲンの生成場所は精巣と副腎でどちらも腎が担当する領域です(生殖器も腎に含まれる)。女性ホルモンのエストロゲンも同じく卵巣と副腎で生成され、どちらも腎の部位となります。腎と精は関連がないように見えますが、西洋医学的にみても同じことを言っていることがわかります。

また副腎皮質からはステロイドホルモンが分泌され、副腎髄質からはアドレナリンが分泌され、腎が生命エネルギーと強く関連していることがみえます。

 六味丸という漢方薬があります。こちらも代表的な補腎薬でご年配の方にほてりに使用されることがあります。腎が衰えることで身体の水を留めることができないため、相対的に熱く感じるようになります。体を冷やしてくれる水が少なくなり、その分熱のエネルギーが相対的に強くなり、ほてりがあらわれます。そういった腎の衰えによるほてりに六味丸が使用されます。この六味丸、ご年配の方に使用されることが多いのですが、子供にも使用されることがあります。先天の精は生まれながらにもった生命エネルギーの動力源です。生まれながらに腎の先天の精が弱いのであれば、腎を補う必要があります。そういったときに六味丸を小児に使用されることがあります。古典ではもともとは小児に使用されていたものが現代で応用され、ご年配の方に使われるようになりました。“『小児薬証直訣』には、「腎怯して失音し、 開きて合せず、 神不足し、目中白晴多く、面色晄白等を治する方」とあり、現代 風に言えば、成長・発育の障害に適応がある。江戸時代には小児の発育障害に対する投与例があり、最近では、井上が低身長 の子供に投与したところ、20cm身長が伸びたとの報告がある。” 処方紹介・臨床の 処方紹介・臨床の 新宿海上ビル診療所 室賀 一宏

https://www.philkampo.com/pdf/phil59/phil59-05.pdf

・納気を主る

肺から全身に分散させた気はそのままでは分散されたままですが、腎には収束する力があり、腎に納まります。腎不納気になると、腎に気が収束できないという病態になり、息切れ・咳・呼吸困難などの症状があらわれます。そのような腎不納気による咳には蘇子降気湯がつかわれます。

腎と咳が関連していることは想像しにくいと思いますが、西洋医学的にみても腎と咳は無関係のものではないです。

腎不全になると水分を排出することができなくなり、水が身体に貯留し、肺にも水が溜まることで咳や息苦しさにもつながります。

それだけでなく、生理活性物質の面からでも腎と咳は関連があります。ACEという酵素をご存知でしょうか。ACEはアンギオテンシンⅠをアンギオテンシンⅡへ変換し、アンギオテンシンⅡが腎・副腎・血管などに作用することで血圧の上昇を引き起こします。ACEを阻害することでアンギオテンシンⅡの生成が抑制され、結果として血圧の上昇を抑え、それが薬となっています。ACE阻害薬にはエナラプリル、イミダプリルなどがあり、それらの薬の副作用に空咳があります。つまり腎・副腎に働くアンギオテンシンⅡの生成を阻害することは、正常な腎の働きを阻害することに繋がり、腎不納気になり、空咳が起こったと捉えることができます(ちなみにACEのほとんどは肺に存在しています)。

・骨を主る

腎は骨、骨格の成長に関与しています。そのため加齢により腎が衰えてくると骨が弱くなり、足腰が弱ってきます。『神農本草経』では補腎薬といわれる生薬に“強筋骨”の記載があります。

西洋医学において腎と骨は関連がないようにも思えますが、深い関連があります。骨を強くする薬の1つに活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドール、エルデカルシトールなど)があります。骨粗鬆症のお薬で多くのご年配の方が服用されています。実際に活性型ビタミンDの生成経路には腎が関連しています。皮膚で日光によってコレステロールからビタミンDとなり、その後肝臓にてヒドロキシ化され、腎臓の尿細管にて活性型になります。この腎臓で活性化された、活性型ビタミンDによって腸からカルシウムの吸収を促進し、血清カルシウム濃度を上昇させ、骨密度・骨強度を改善し、骨粗鬆症の治療に使います。腎と骨の関連があることがわかります。

以上の話から腎と骨に繋がりがあり、腎が衰えると骨にも影響をあたえるのではないかと考えることができます。実際に腎の衰えは骨にも影響を与えます。腎は生命エネルギーをあらわし、加齢による衰えは腎虚と表現されることが多いです。加齢は腎虚の要因となり、加齢は骨粗鬆症の要因でもあり、腎虚と骨粗鬆症のつながりがあります。

西洋医学的にみても、腎の弱さは骨にも直結します。慢性腎不全の病態において骨の脆弱性がみられます。腎臓の機能低下によってリンを排出するができないことと、腎臓にてビタミンDを活性化できないことによって、血中のカルシウム濃度が低下します。身体は低下しているカルシウムを上昇させるため、また蓄積しているリンを排出するために、パラソルモンを必要以上に過剰に分泌します(二次性の副甲状腺機能亢進症)。パラソルモンは血中のカルシウム濃度を無理やり上げるために“骨”からカルシウムをもってきます。血中カルシウム濃度を上昇させるために骨がスカスカになり、骨の脆弱性につながります。慢性腎不全からも骨のつながりがあることがみてとれます。

・華は髪

年齢を重ねてくると、腎が弱まり、白髪が増え、頭も薄くなってきます。65歳以上では3人に1人はCKDがみられることからも、年齢を重ねることで腎機能は落ち、加齢による脱毛とタイミングが重なります。脱毛は腎の衰えと解釈することができるため、脱毛症に八味地黄丸という補腎薬が使用されることがあります(Clinical Research 『脱毛症における八味地黄丸の有効性の検討』 森原 潔、森原 徹 漢方医学 34(2), 176-181, 2010)。

髪に関しては“髪は血の余たり”ともいうように腎だけでなく、血の影響を受けます。贊化血余丹(さんかけつよたん)は熟地黄・鹿角の補腎薬と当帰・枸杞子・何首烏の補血薬から構成されています。

・耳に開竅する

腎の働きは耳にあらわれます。腎が衰えて、歳を重ねると耳が遠くなっていくのは実感できると思います。

また西洋医学的にも腎不全患者の方に感音難聴が多く認められることは実際に報告されています。

ただし腎は耳に開竅していますが、耳周辺は経絡が多く通るところでもあり、少陽三焦経、少陽胆経、太陽小腸経などそれらの関連もあります。

・唾は腎液

唾と涎は似ていますが、粘度がある方が唾、サラッとしているものが涎です。唾は腎液で、涎は脾液です。

唾液が乾いて、口のなかが乾燥する症状の疾患にシェーングレン症候群があります。唾液がでないこと、涙液の乾燥(肝は目に開竅する)からもシェーングレン症候群は肝腎陰虚の症状といわれています。

・志

・五色

・五味

鹹(かん)味。塩辛い味。

・季節

冬。腎は精を蓄え、納気するなど封蔵、固摂の役割があります。冬は寒く、たくわえ、引きしまる季節であり、腎の季節となっています。

 

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