茯苓飲
心下に痰飲が溜まっているときの茯苓飲です。茯苓飲と半夏厚朴湯を合わせたものを茯苓飲合半夏厚朴湯といい、逆流性食道炎につかわれることもあります。茯苓飲はもともと、『金匱要略』の太陰咳嗽病篇に記載のある漢方薬です。
『金匱要略』での茯苓飲の使われ方↓
「茯苓飲、治心胸中有停痰宿水、自吐出水後、心胸間虚、気満、不能食、消痰気、令能食。」
脾虚の方の胃内停水の処方です。もともと脾胃が弱く虚している方は水を捌く(さばく)ことができず、胃に水が貯留しやくなります。ただ胃に溜まった水を吐いて出しても、もともとの脾胃虚弱が改善されているわけではないため、お腹が張ったり、食欲が湧いてきません。そのようなときは胃内停水に対応しつつ、補気する茯苓飲をつかいます。
茯苓飲は茯苓・人参・白朮・枳実・橘皮・生姜の6薬から構成されています。枳実・白朮の組み合わせは枳朮湯でも知られ、心下の水飲の詰まりを解きます。エキスでは橘皮ではなく、陳皮が使用されています。人参にて脾胃の気を補い、茯苓・白朮にて健脾利水、枳実・橘皮・生姜にて健脾します。
効能又は効果は?
ツムラの添付文書には「吐きけや胸やけがあり尿量が減少するものの次の諸症:胃炎、胃アトニー、溜飲」と記載があります。
何が入っているの?
茯苓・白朮・人参・枳実・橘皮・生姜の6薬から構成されています。
茯苓・白朮:利水健脾
茯苓・白朮はどちらも利水と補気を兼ねた生薬であり、身体の余分な水を去ります。
人参:補気
人参を使うのは心下に水飲が溜まる原因に虚があるためです。脾虚によって水をさばくことができず、水飲が貯留していきます。人参にて気を補い、痰湿が溜まらない土台を固めます。
枳実・橘皮:破気化痰
枳実は破気薬でお腹の気の詰まりを下に降ろします。橘皮は化痰薬であり、痰飲をさばきます。枳実と白朮の組み合わせは枳朮湯で知られ、心下の水飲を解きます。
効果のまとめ
茯苓・白朮にて利水し、水をさばき、枳実・橘皮にて破気し、気の詰まりを解きます。人参にて気を補い、虚の側面を補い、脾虚によって水飲が溜まるのを防ぎます。
ほかの漢方薬との違いは?
胃薬として使用される漢方薬にはほかに安中散、半夏瀉心湯、平胃散、茯苓飲、六君子湯、参苓白朮散、半夏厚朴湯などがあげられます。
安中散
まず安中散は温める生薬から構成されているように舌が白く冷えているときなどに向いています。冷えを伴なう胃腸症状には安中散です。
半夏瀉心湯
半夏瀉心湯も消化器症状があるときによく使用される方剤です。安中散は冷えに使い、黄連解毒湯は熱に使うのに対し、半夏瀉心湯は寒熱どちらにも使用できます。『傷寒論』からつくられる方剤で原典では、心下痞と言うみぞおちの辺りに痞える(つかえる)症状やお腹がゴロゴロ鳴るときに使用されています。半夏瀉心湯は寒熱どちらにも使用されると説明しましたが、簡単にいえば胃に熱をもち、脾が冷えている状態につかわれています。半夏瀉心湯は寒熱どちらにも対応でき、みぞおちのつかえがあるときです。
平胃散
平胃散は文字の通り“胃を平じる散”ですが、水湿による影響が大きいときに使います。蒼朮・陳皮の燥湿の生薬がつかわれており、水湿を取り除いてあげることで胃腸の働きをよくします。胃もたれ、消化不良には平胃散です。
茯苓飲
茯苓飲は『金匱要略』に記載がある漢方薬であり、“虚”があることによって“停痰宿水”の状態になっています。そのため茯苓飲には人参が配合されており、人参にて気を補うことで胃腸の働きを改善し、枳実・白朮にて枳朮湯の組み合わせにて心下に溜まった水を降ろします。平胃散よりも心下での水飲の詰まりが強いときに茯苓飲です。
六君子湯
六君子湯は病院でもよく使用される漢方薬の1つです。茯苓飲と同じくこちらも人参が配合されており、気を補ってくれる方剤です。気が不足していると水・痰飲の処理するも能力が落ち、身体に湿というヌメリが溜まっていきます。日本は多湿の気候からも湿をため込みやすく、農耕などで身体を動かす機会が減り、汗もあまりかかなくなったことからより一層湿をため込みやすい傾向にあります。六君子湯は人参にて気を補うとともに、湿をさばく半夏・陳皮も入っており、補気と化痰を兼ねつかいやすい方剤です。胃薬といえば六君子湯です。
参苓白朮散
参苓白朮散は人参・山薬・甘草・白朮・薏苡仁・茯苓・扁豆・縮砂・桔梗・蓮肉から構成されています。人参が入っていることからも気を補う構成であり、それだけでなくお腹が緩いときに使用されます。お腹が弱く、下痢しやすい方には参苓白朮散です。
半夏厚朴湯
半夏厚朴湯は“神経性胃炎”に使わるように蘇葉(シソの葉)の芳香にて気鬱を発散し、原因不明の違和感を緩和します。ストレスによる消化器症状であれば半夏厚朴湯です。
処方箋でもらう薬とドラッグストアで売っている薬はどう違うの?
処方箋でもらうときツムラが多いので、ツムラにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
ツムラ69 7.5g(3包)中には、、、
日局ブクリョウ 5.0g
日局ソウジュツ 4.0g
日局チンピ 3.0g
日局ニンジン 3.0g
日局キジツ 1.5g
日局ショウキョウ 1.0g
医療用のメーカーごとの違いは?
大手3社(ツムラ、クラシエ、コタロー)の生薬量を比較してみました。茯苓飲の扱いはツムラのみでした。
ドラッグストアで購入できるものとの違いは?
ドラッグストアで売られている市販のものにはどれくらい生薬が入っているか調べてみましたが、市販での茯苓飲の扱いはありませんでした。
心下に溜まった水飲には茯苓飲