調胃承気湯
大承気湯、小承気湯、調胃承気湯は『傷寒論』陽明病にて陽明腑実証でつかわれる漢方薬です。陽明病とあわせて、承気湯類について説明します。
・陽明病とは?
「問曰、何縁得陽明病。答曰、太陽病、若発汗、若下、若利小便、此亡津液、胃中乾燥、因転属陽明。不更衣、内実大便難者、此陽明也」
「陽明之為病、胃家実是也」
「問曰、陽明病外証云何。答曰、身熱、汗自出、不悪寒反悪熱也」
『傷寒論』に記載されている陽明病を説明している条文です。何をもって陽明病というのか?太陽病で発汗し、下し、もしくは利尿させると津液を失います。つまり脱水の症状になり、胃が乾きます。胃だけでなく腸も乾燥しているため便が固くなり、“不更衣(トイレに行かない)”となり便秘になっていることをあらわしています。これを陽明病としています。ひとことで言えば表裏に熱が籠り、脱水、胃や腸の乾燥、便秘の症状が陽明病です。“胃家実”と表現していますが、病邪が表から裏の胃に熱邪が実していることを表現しています。“胃”ではなく、“胃家”としていることからも胃だけでなく、小腸・大腸も含めた胃腸に邪熱が存在しているのです。熱がこもっている状態のため次の条文では身体は熱も持ち、汗がでて、“不悪寒反悪熱”とあり、太陽病と異なり、悪寒ではなく、悪熱があります。
経絡から見てもお腹のところを通っていることがわかります。
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・調胃承気湯
「陽明病、不吐、不下、心煩者、可與調胃承気湯」
吐かせたり、下させたりしていないのに心煩と精神に影響がでている状態です。梔子豉湯をつかった症状に似ているのですが、まだ吐法・下法をしていないにも関わらず心煩の症状がでています。これは熱邪が結しはじめたばかりの状態です。その場合は承気湯のなかでも作用が穏やかな調胃承気湯をつかい、軽く清熱します。
調胃承気湯は甘草・芒硝・大黄の3味から構成されています。大黄は苦寒にて血分の熱を清します。心煩と心という血分に熱があるため、大黄にて心煩を取り除きます。大黄にも特徴があり、『傷寒論』では大黄に“清酒洗”とあります。“清酒洗”の大黄は承気湯類と抵当湯のときに記載があり、それ以外の桃核承気湯などでつかわれるときは“酒洗”の文字はありません。清酒で洗うことで苦寒の性を上行させ、心熱を除きます。
芒硝は寒苦で瀉熱通便・除去蓄去結飲食します。ただこの条文では通便するよりも瀉熱目的で使用されています。『神農本草経』にも“主五蔵積熱”とあり、臓の熱を去ります。甘草は甘であり、津液を補い大黄・芒硝による瀉下による過度な脱水を防ぐとともに、作用を穏やかにする効果もあるので瀉下作用が強くですぎないようにしています。
・大承気湯・小承気湯
「陽明病、脈遅、強汗出不悪寒者、其身必重、短気、腹満而喘、有潮熱者、此外欲解、可攻裏也。手足濈然汗出者、此大便已硬也、大承気湯主之。若汗多、微発熱悪寒者、外未解也。其熱不潮、未可與承気湯」
「若腹大満不通者、可與小承気湯、微和胃気、忽令至大泄下」
陽明病の症状をまとめてある条文です。陽明病は“胃家実”というように胃・小腸・大腸に熱邪が集まり、便の乾燥、便秘、腹満、それに伴うさまざまな症状があらわらます。便秘になり、腸中の阻塞のため脈が遅を呈します。臓腑の中に瘀積が実在し、気化の流通が阻滞されると遅脈になります(大陥胸湯のときも遅脈を呈します)熱邪による影響のため、悪寒はありません。大腸にて便がつまっているため、気が下へ向かうことができず、心へ影響し、短気になります。大腸と肺は表裏の臓器であるため、大腸の影響は肺へもあらわれます。そのため喘という咳の症状もあります。潮熱という一定の時間に発熱するという症状もあります。こういったときは邪が裏にあるため、これを攻める必要があります。そういった硬い便に対処するために大承気湯を用います。
熱だけでなく悪寒が伴うときは陽明病の発熱ではなく、太陽病による発熱のため、承気湯は使うべきではないと、使用してはいけない条件も記載されています。
大承気湯は大黄・厚朴・枳実・芒硝の4薬から構成されています。大黄・芒硝は調子承気湯でも使用されているように、大黄は苦寒にて瀉熱通腸、芒硝は寒苦で瀉熱通便・除去蓄去結飲食します。厚朴は苦温で下気除満にて気滞不通に働きます。枳実は破気消積であり、気の滞りを緩和し、溜まっていたものを解消します。大承気湯は便秘を改善するだけでなく、便の停滞による気の阻滞を厚朴・枳実にて改善します。大承気湯は便秘薬ではなく、厚朴・枳実が入っていることからも気剤と捉えることができます。そのため名前も蒸“気”湯という名称になっています。
小承気湯をつかうときは腹大満のように便秘の症状はみられても、潮熱があったり、手足から汗がでたりという症状はみられない、より軽度な状態のときに使用します。
小承気湯は大黄・厚朴・枳実の3薬から構成されています。大承気湯から芒硝を抜いたものです。小承気湯では、大承気湯のときほど熱の症状はまだ強くないため芒硝は使用せず、腹部に便が溜まっている状態を解消することに重きを置いています。
瀉下作用の強さで並べると大承気湯>小承気湯>調胃承気湯となります。