人参(にんじん)

人参は生薬としても有名です。漢方の人参と、食卓に並ぶ人参は同じものなのでしょうか?

結果からお話すると漢方でつかわれるニンジンと、カレーや肉じゃがに入っているニンジンは別物になります。漢方のニンジンはウコギ科で、普段食べる赤いニンジンはセリ科のものになります。

人参は高麗人参などサプリメントとして販売されており、気を補う作用は強力であるため、ご自身の体調にあわせて服用する必要があります。気のめぐりが悪いことで疲れやすくなっているところに、気を補う人参を飲んでしまうと、余計に目詰まりを起こしてしまい、症状が悪化する恐れがあります。気が虚しているときだけ人参を服用してください。



目次

現代中医学

気味:甘・微苦 微温

帰経:肺・脾

効能:補気固脱、補脾気、益肺気、生津止渇、安神益智

古典

気味:甘 微寒<神農本草経>

帰経:肺・脾<葉天士解本草>

Amazonで人参の入った漢方を探す 楽天で人参の入った漢方を探す

ここでは人参について『神農本草経』と葉天士がそれを解説した『葉天士解本草』から人参の働きについて考えたいと思います。

『神農本草経』

気微寒。味甘。無毒。補五臓。安精神。定魂魄。止驚悸。除邪氣。明目。開心益智。久服軽身延年。

『葉天士解本草』

人参気微寒。稟天秋令少陰之気。入手太陰肺経。味甘無毒。稟地中正之土味。入足太陰脾経。気厚於味。陽也。

肺為五臓之長。百脈之宗。司清濁之運化。為一身之橐籥(たくやく:火を起こす道具)。主生気。人参気寒清肺。肺清則気旺。而五蔵倶補矣。

精者陰気之英華。神者陽気之精霊也。微寒清肺。肺旺則気足而神安。脾属血。人身陰気之原。味甘益脾。脾血充則陰足而精安。

随神往来者謂之魂。並精出入謂之魄。精神安。魂魄自定矣。

気虚則易驚。血虚則易悸。人参微寒益気。味甘益血。気血平和。驚悸自止。

邪之所湊。其気必虚。人参益気。正気充足。其邪自不能留。故能除邪氣。

五蔵臓陰者也。五蔵得甘寒之助。則精気上注於目而目明矣。

心者神之処也。神安所以心開。開者朗也。腎者精之舎也。精充則伎巧出而智益。

久服則気足。故身軽。気足則長生。故延年也。

↓で『神農本草経』と『葉天士解本草』を比較し、解説します。

気微寒。味甘。無毒。

「人参気微寒。稟天秋令少陰之気。入手太陰肺経。味甘無毒。稟地中正之土味。入足太陰脾経。気厚於味。陽也。」

人参は現在では微温や温性とされていますが、『神農本草経』では“微寒”となっています。これからも熱証の白虎加人参湯に人参が入っているのも納得できます。『神農本草経』と現在とで寒熱が逆になっているのには基原植物が異なるなど諸説ありますが、張錫純著『衷中参西録』には『神農本草経』や『傷寒論』の時代では人参は“生”党参を使っていたのではないかと考察されています。

人参は微寒で甘味、太陰肺経、太陰脾経に入ります。気、味は厚く、作用は強力です。

補五臓。

「肺為五臓之長。百脈之宗。司清濁之運化。為一身之橐籥(たくやく:火を起こす道具)。主生気。人参気寒清肺。肺清則気旺。而五蔵倶補矣。」

肺は百脈を主り、五臓の長です。肺は、火を起こす道具のように全身に気をおくり、生気を主ります。人参は気寒にて肺を清め、清肺にて気が旺盛になり、人参は五臓を補います。人参が気を補うことは六君子湯や補中益気湯など多くの漢方薬につかわれています。

安精神。

「精者陰気之英華。神者陽気之精霊也。微寒清肺。肺旺則気足而神安。脾属血。人身陰気之原。味甘益脾。脾血充則陰足而精安。」

精は陰気の英華であり、神は陽気の精霊です。人参は微寒にて清肺し、気が旺盛になり、気が足りることで神は安じます。脾は血に属し、陰気の源となります。人参の甘味にて益脾し、脾血が充足し、陰が足りることで精は安じます。帰脾湯、人参養栄湯、天王補心丹、安神定志丸にも人参が入っており、気血を養うことで精神を落ち着かせることに繋がります。

定魂魄。

「随神往来者謂之魂。並精出入謂之魄。精神安。魂魄自定矣。」

「神に随いて往来する者これを魂と謂う。精に並びて出入する者これを魄と謂う。」 “霊枢・本神篇”に記載があります。精神が安じることで魂魄も自ずと定まり、安定します。

止驚悸。

気虚則易驚。血虚則易悸。人参微寒益気。味甘益血。気血平和。驚悸自止。

気が虚すれば驚きやすくなり、血が虚すれば動悸しやすくなります。人参の微寒にて気を益し、甘味にて血を益することで気血は平和になり、驚悸も自ずと止みます。帰脾湯、人参養栄湯、天王補心丹、安神定志丸にも人参がつかわれています。

除邪氣。

「邪之所湊。其気必虚。人参益気。正気充足。其邪自不能留。故能除邪氣。」

邪のあつまるところ、必ず気虚すというように人参にて益気し、正気が充足することで邪は留まることができなくなります。ゆえに人参はよく邪気を除きます。敗毒散、小柴胡湯などにも人参は入りっていますが、去邪の方剤にもなっています。

明目。

「五蔵蔵陰者也。五蔵得甘寒之助。則精気上注於目而目明矣。」

漢方において五臓六腑を陰陽にわけると、臓は形を有し、蓄える臓であることから陰とし、腑は蓄えるというよりも気血水の通り道であることから陽とされています。五蔵は陰であり、甘寒の助を得ることで精気が上注し、明目します。肝は目に開竅す、といい肝と目の関連が強い印象がありますが、実際は肝だけでなく、目は残りの臓とも関連が強いです。白目は肺、黒目は腎、瞳孔は肝、目頭は心、瞼は脾と細分化されており、明目には五臓すべてが重要になるため、人参にて気を補う必要があり、石斛夜光丸にも入っています。

開心益智。

「心者神之処也。神安所以心開。開者朗也。腎者精之舎也。精充則伎巧出而智益。」

心は神の拠り所であり、神が安じることで心が開き、はっきりとした意識となります。「腎は作強之官。伎巧ここより出づ」といい、腎は精が充足することで智を益します。

久服軽身延年。

「久服則気足。故身軽。気足則長生。故延年也。」

人参を長く服用することが気が足り、軽身となります。気が足りれば長生きし、ゆえに延年となります。




よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次
閉じる