莵絲子(としし)はネナシカズラの植物の種子です。
莵絲子は右帰丸・左帰丸にもつかれており、補腎の生薬です。
流産などにつかわれる寿胎丸にも莵絲子は含まれ、『衷中参西録』にて張錫純は以下のように莵絲子の働きについて説明しています。
“莵絲には根がなく、草木の上に蔓を延ばし草木を茂らせないのでほかの植物の気化物質を吸い取って自養することがわかる。胎児は母体の腹中にあり、母体の気化物質を吸収していれば流産の恐れはない。さらに男女の生育はいずれも腎臓の作強に依存する。莵絲子は大いに補腎し、腎がさかんならばおのずと胎児はその恩恵を被る。”『衷中参西録』
現在中医学
気味:辛・甘 微温
帰経:肝・腎・脾
効能:補肝腎、固精縮尿、安胎、明目、止瀉の効能から肝腎不足、腰膝酸痛、陽痿(インポテンツ)、遺精、遺尿、頻尿、腎虚胎漏、胎動不安、目昏(目がはっきり見えない)、耳鳴り、脾腎虚瀉に応用される。
古典
気味:辛・甘 平<神農本草経>
帰経:肺・脾・胃<葉天士解本草>
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莵絲子の働きについて『神農本草経』と葉天士がそれを解説した『葉天士解本草』から考えたいと思います。
『神農本草経』
気平。味辛甘。無毒。主続絶傷。補不足。益気力。肥健人。
『葉天士解本草』
莵絲子気平。稟天秋平之金気。入手太陰肺経。味辛甘無毒。得地金土二味。入足太陰脾経、足陽明燥金胃経。気味升多於降。陽也。
其主続絶傷者。肺主津液。脾統血。辛甘能潤。潤則絶傷続也。
肺主気。脾主血。胃者十二経之本。気平而味辛甘。則気血倶益。故補不足也。
気力者得於天。充於穀。辛甘益脾胃。則食進於気力充也。
脾胃為土。辛甘能潤。則肌肉自肥也。
↓にて『神農本草経』と『葉天士解本草』の条文を並べて考えたいと思います。
気平。味辛甘。無毒。
莵絲子気平。稟天秋平之金気。入手太陰肺経。味辛甘無毒。得地金土二味。入足太陰脾経、足陽明燥金胃経。気味升多於降。陽也。
莵絲子は気平で秋平之金気をもり、太陰肺経に入ります。味は辛・甘であり、太陰脾経・陽明胃経に入ります。
主続絶傷。
其主続絶傷者。肺主津液。脾統血。辛甘能潤。潤則絶傷続也。
肺は津液を主り、水道を通調し、脾は統血します。損傷し流れが途絶え、乾いていた部分を莵絲子の辛味・甘味にて潤すことで以前のようにつなげます。
補不足。
肺主気。脾主血。胃者十二経之本。気平而味辛甘。則気血倶益。故補不足也。
肺は気を主り、脾は血を主ります。胃は食べ物を消化する腑であり、胃は十二経の本といわれます。莵絲子の気平・味辛甘にて気血ともに益し、ゆえに不足を補います。莵絲子は右帰丸・左帰丸どちらも配合されている生薬からも“補不足”の作用があることがわかります。
益気力。
気力者得於天。充於穀。辛甘益脾胃。則食進於気力充也。
気力は天から得て、穀物から充足されます。莵絲子の辛甘にて脾胃を益し、食が進み、気力が充たされます。
肥健人。
脾胃為土。辛甘能潤。則肌肉自肥也。
脾胃は中央に位置し、ほかの臓腑の土台となるため土に例えられます。莵絲子の辛甘はよく土(脾胃)を潤すことで自ずと肌肉が肥えます。