腰痛

腰痛診療ガイドラインには“腰痛は、脊柱を構成する数多くの解剖学的組織から引き起こされる;椎間板、椎間関節、神経根、椎骨骨膜、筋・筋膜、靭帯、血管など。様々な疾患、外傷によって、これらの組織が障害され腰痛が発症する”と書いてあります。

つまり腰痛の原因は幅広く、脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性、その他にわけられます。

日本において腰痛の原因は椎間関節性22%、筋・筋膜性18%、椎間板性13%、狭窄性11%、椎間板ヘルニア7%とされ、診断不明のものは22%となっています。

ここでは骨折、打撲、悪性腫瘍などの要因ではない、慢性的な腰痛について考えたいと思います。

目次

目次

  1. 腰痛が良くなる因子は?
  2. 生活習慣と腰痛の関係
  3. 腰痛に使う西洋薬
  4. 腰痛の漢方での考え方
  5. 冷えると痛む方に
  6. 手足の末端の冷え、冷え性、しもやけになりやすい方
  7. 冷え、頻尿、夜間尿もある方
  8. 慢性化した腰痛、関節痛、神経痛のある方
  9. 重だるい痛み、しびれ、水がたまる関節痛の方
  10. むくみやすい、汗をかきやすい方の関節痛
  11. ほてり、頻尿、口渇のある方

腰痛が良くなる因子は?

腰痛改善の因子としては、運動習慣、若年齢、健康状態が良好で併存症が少ないこと、身体機能が高いこと、精神的機能が良好であることなどが報告されている。

女性では、健康的な生活習慣(喫煙なし、アルコール摂取量が少ない、余暇の運動、フルーツおよび野菜摂取量が多い)が腰痛の予後にいいとする報告もあります。

生活習慣と腰痛の関係

体重と腰痛

低体重群と腰痛の有病率をみると弱い関連がみられ、肥満と腰痛とでも弱い関連がみられるそうです。つまり体重の軽重と腰痛は関係ないとはいえないが、強い関連があるわけではないのです。

喫煙と腰痛

喫煙についても、非喫煙者の方が少ない傾向はあるが、強い関連があるとはいえないようです。

アルコールと腰痛

アルコールと腰痛も弱い関連はあるようです。

運動と腰痛

運動については、運動と腰痛予防、腰痛改善に関連があり、活動的な日常生活と慢性腰痛の予防には弱いエビデンスがあり、適度な運動を取り入れた健康的な生活習慣が推奨されます。

ストレスと腰痛

腰痛の治療正成績と遷延化には心理社会的因子が強く関連します。うつや仕事上の問題がない方の方が復帰が早くなるそうです。



腰痛に使う西洋薬

急性腰痛:推奨度“1”→NSAIDs

     推奨度“2”→筋弛緩、アセトアミノフェン、弱オピイド

慢性腰痛:推奨度“2”エビデンスの強さA→セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、弱オピオイド

推奨度“2”エビデンスの強さB→NSAIDs

腰痛の漢方での考え方

腎との関係

腰は腎之府といわれます。腎は加齢に関係する臓であり、加齢によって腎は衰えていきます。腎の衰えは腰にあらわれ、腰痛となります。腎の衰えは腰だけでなく、ほかにも骨の脆弱化、頻尿、精力の減退にもつながります。

熱・寒

腰や関節のその痛みは温めた方が楽になりますか?冷やした方が楽になりますか?

漢方では同じ痛みでも熱・寒の区別があります。

例えば骨折したとき、その損傷部位は炎症がひどく、赤く腫れ、熱をもっています。熱をもった炎症を抑えるためには冷やす必要があります。漢方では熱をもった関節痛に石膏が入った漢方薬がつかわれます。西洋薬でも急性の炎症はNSAIDsというロキソプロフェンを代表とする分類の薬がつかわれます。ロキソプロフェンは痛み止めの印象が強いですが、解熱剤としてもつかわれます。つまりロキソプロフェンは炎症を抑え、熱をとる薬剤といえます。

冷え

痛みでも冷えが原因の痛みもあります。寒い日に痛みがひどくなり、温めたときや、風呂に入ったときに和らぐタイプの痛みです。冷えが痛みの原因になるときは附子・桂皮などが入った温める漢方薬を使い、散寒止痛します。温シップを好んで使うときは冷えが原因かもしれません。

ロキソプロフェンを代表とするNSAIDsは急性の炎症の場合は炎症を抑えるとともに熱をとります。つまり熱をもった急性腰痛と、冷やす薬のNSAIDsは相性がよく、腰痛診療ガイドラインでは急性炎症では推奨度“1”、エビデンスの強さAとなっています。慢性腰痛は痛みの要因が熱だけでなく、冷えが原因の方もいます。NSAIDsの慢性疼痛のガイドラインでの位置づけは推奨度“2”、エビデンスの強さBとなっており、急性腰痛と慢性腰痛では推奨度が異なっています。冷やすNSAIDsと慢性疼痛とでは多少相性が悪いと考えられます。

水・湿・痰

水湿

痛みが生じる原因に水・湿・痰が関わっていることがあります。イメージしやすいのは浮腫みです。浮腫むということは水が溜まっている証拠です。浮腫みから関節の痛みがあるときは、水を出す必要性があります。湿気のようなものが身体に溜まることで痛みが生じます。雨が降った時に膝・腰が痛む方がいらっしゃいますが、これも外環境の湿と体内の湿が反応し、関節痛・腰痛となっています。

さらっとした水をため込んで痛みとなっている場合は麻黄・石膏の組み合わせにて水を抜きます。

痰湿

湿・痰というのは水よりも粘性をもったものを示します。最初はさらっとした水であっても長く停滞することで熱をもち、鬱熱で水が煮詰められることで湿・痰となります(痰はやまいだれに火が二つと書きます)。痰湿のドロッとした水が関節・腰の気血の流れを妨げることで痛みとなります(不通則痛)。ドロッとした粘性をもった水であるため、石膏では動かすことができず、薏苡仁(ヨクイニン)をつかいます。薏苡仁は皮膚科でよくイボに使われますが、ドロッした水が肌に溜まることでイボになることが想像できます。それが関節・腰に溜まると痛みとなるのです。

血虚・瘀血

腰痛・関節が慢性化するとさらに深い、血の領域の問題となってきます。

気血水の流れが悪い状態が長く続くことで栄養を届ける経絡が弱り、栄養が全身の末端まで行きわたらず、身体の組織はどんどん弱っていきます(絡虚不栄)。身体の組織は痩せていくため、さらに気血がめぐらず、痛みが生じます(不栄則痛)。身体の栄養不足からする腰痛・関節痛には養血と通絡の漢方薬をつかいます。血があれば身体の組織を維持することができ、気血が通る道を作ることができます。

血の流れが滞っている瘀血は気の流れを阻害するため、痛みとなります。難治性の場合は瘀血が原因といわれ、血の鬱滞が原因であるため桃仁などの血を動かす漢方薬を使う必要があります。

生理のときの腰痛

生理のときに腰痛となることもよくあります。腰は腎之府であり、生理と腎も関係があるからです。腎は男性であれば精力・インポテンツと相関し、女性では生理・妊娠と相関します。もともと腎が弱っていたり、生命エネルギーがもともと弱い方は生理のときに多くのエネルギーを消耗します。腎が弱っているところにさらに生理がくるため、腎虚による腰痛となります。生理のときに腰痛がある方は腎が弱っているため、生理の時も1,2日目は血の量が多くても3日目以降に極端に血の量が少なくなる症状もみられます。

冷えると痛む方に

冷える日に関節が痛み、温めたり、お風呂に入ったりすると痛みが和らぎ、温シップを好まれる方は冷えが原因による痛みの恐れがあります。

身体を強く温めてくれる漢方薬の桂枝加朮附湯で散寒止痛します。
桂枝加朮附湯には附子が入っています。
附子は身体の奥から温める生薬の代表的なものです。
附子が身体の内側から強く温めてくれることで止痛に働きます。

冷える日に関節が痛み、温めたり、お風呂に入ったりすると痛みが和らぎ、温シップを好まれる方は、身体の内側から強く温めてくれる桂枝加朮附湯が適しています。

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手足の末端の冷え、冷え性、しもやけになりやすい方

手足が冷える冷え性の方は熱が末端まで届いていない恐れがあります。手先、足先まで気血の温かいエネルギーが行きわたらないとき、腰・足でも気血の循環が悪く、腰痛・足の痛みとなります。

冷え性、手足末端の冷えのある方には気血のめぐりをよくする当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使います。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯には当帰という血を養う生薬が入っています。
呉茱萸は温中下気といい、気を温め、足までめぐらせます。
細辛はピリピリとした辛味のある生薬で、冷えによって滞っている気を末端まで走らせます。

末端まで気血がめぐらないことで冷え性、末端冷え性となり、腰痛・足の痛みになります。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は気血を末端まで走らせる生薬が入り、冷え性をともなう腰痛・足の痛みに使われます。

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冷え、頻尿、夜間尿もある方

冷えとともに、腰痛、頻尿、夜間尿があるのは腎虚の恐れがあります。ほてりよりも冷えの症状が強い時は腎陽虚となります。

腎陽虚からの腰痛、冷え、頻尿には八味地黄丸を使います。

八味地黄丸には桂皮・附子という身体を強く温める生薬が入っています。
ほかにも腎を補う生薬から構成され、腎虚に対応しています。

腎虚によって尿を蓄えられず、頻尿、夜間尿となります。腎虚は頻尿だけでなく、腰痛も起こします。冷えが強い時は腎陽虚による腰痛です。補腎陽と腎虚に対応した八味地黄丸が適しています。

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慢性化した腰痛、関節痛、神経痛のある方

病は慢性化すると、気血が身体の組織にめぐらず、痛みが生じる(不通則痛)とともに四肢がやせていきます(絡虚不栄)。組織が痩せていくことで、より気血が循環しにくくなり、痛みが生じる悪循環となります(不栄則痛)。

気血を養う作用と通絡する作用をもつ疎経活血湯が使われます。

疎経活血湯には当帰・芍薬・川芎・地黄(四物湯の組み合わせ)といわれる血に働く生薬が多く入り、血を養います。
ほかにも威霊仙という生薬は辛味にて通絡し、痛みやしびれに使われます。

慢性的な痛みは徐々に身体に悪い影響を与えます。気血のめぐりの悪さは痛みにつながり、身体に栄養が行きわたらない要因にもなります。そうすることでさらに痛みが生じる悪循環になります。そういった慢性的な痛み、腰痛、関節痛、神経痛には養血と通絡を兼ねた疎経活血湯が適しています。

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重だるい痛み、しびれ、水がたまる関節痛の方

重だるい痛み、水がたまるなどの症状は痰湿が原因です。

痰湿は水気を含んでいるため、関節に水が溜まりますし、痛みも刺すような痛みではなく、重だるいものになります。雨による湿気の影響も受けます。

原因である痰湿を追い出すために薏苡仁湯(よくいにんとう)を使います。

薏苡仁湯には薏苡仁が入っており、痰湿をさばいてくれます。
『神農本草経』にも薏苡仁は“主筋急拘攣不可屈伸。久風湿痺。”とあり、筋肉を曲げ伸ばしづらいような関節痛に使われることが記載されています。
桂皮・麻黄も入り、関節・腰を温め、芍薬にて筋肉のこわばりを緩和します。

関節や腰の痛みが重だるいようなとき、関節に水がたまるとき、雨の湿気の影響をうけやすいときは痰湿が痛みの原因の恐れがあります。薏苡仁湯にて痰湿をさばき、温めてくれることで腰痛、関節痛につかわれます。

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むくみやすい、汗をかきやすい方の関節痛

むくみというのは水が溜まっている状態です。水が溜まることで気の流れがさえぎられ、痛みとなります。汗をかきやすいときは気が体表までめぐっていないため生じます。水の鬱滞と気のめぐりの悪さに防己黄耆湯をつかいます。

薏苡仁湯は痰湿につかうのに対し、防己黄耆湯は水湿に使い、似ています。痰湿の方が粘性があり、水湿の方がさらっとしています。関節にたまる水は滑液といい、少し黄色味を帯びた透明な液体でヒアルロン酸が含まれ、少し粘性があります。そのため痰湿に対する薏苡仁湯をつかいます。それに対し、むくみの原因は水です。利尿剤を服用することで浮腫みは改善することも多く、水なのでさらっしており、防己黄耆湯が適しています。

防己黄耆湯にて浮腫みの水を動かします。浮腫みからくる関節の痛み、腰痛には防己黄耆湯が適しています。

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ほてり、頻尿、口渇のある方

八味地黄丸は腎“陽”虚につかわれますが、六味丸は腎“陰”虚につかわれます。

腎虚からくる腰痛であるため、加齢とともに症状が悪くなり、動くと症状が悪化し、休むと改善するタイプの腰痛です。

陰虚で熱を冷やすことができないため、ほてり、口渇があります。腎虚から頻尿、夜間尿の症状もあります。腎陰虚からくるほてり、頻尿、口渇もある腰痛には六味丸が適しています。

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