柴胡桂枝乾姜湯
不眠症、神経症、更年期障害、うつ、汗、パニック障害などさまざま症状に使用されます。『金匱要略』では“瘧”という突発的な熱のときに使用されています。不眠症、神経症、更年期障害、うつ、汗、パニック障害などにつかわれているのは『傷寒論』でそのような症状の方に使用されているからです。
『傷寒論』での使い方↓
『傷寒論』少陽病篇「傷寒五六日、已発汗而復下之、胸脇満微結、小便不利、渇而不嘔、但頭汗出、往来寒熱、心煩者、此為未解也。柴胡桂枝乾姜湯主之」
“胸脇満微結”“往来寒熱”からも少陽三焦経に邪が停滞しているときの状態です。水の通り道である三焦が失調するため小便不利、口の乾きが生じます。脇下と膈はつながっており、脇下で停滞している邪によって膈が機能しなくなります。膈というのは横隔膜のことで上下の流れを整える部位になります。カメラでいうレンズの“絞り”にあたり、絞ったり、緩めたりすることで上下の気の流れをスムーズにします。その脇下・膈が乾くことで下から上へ、上から下へ気が通行できなくなります。上にある気が下に行くことができず、上でのぼせのような状態になり、頭がほてり、“頭汗出”となります。また少陽病期であるため“往来寒熱”という熱と冷えの症状が交互にあります。頭がのぼせたり、急に火照ったりする症状は更年期障害に似ています。柴胡桂枝乾姜湯には桂枝茯苓丸のような血滞を動かす生薬は配合されていませんが、『傷寒論』でのぼせ・往来寒熱に使われ、更年期障害様症状に使用されていることから添付文書にもそのような記載があると考えられます。
効能又は効果は?
ツムラの添付文書には「体力が弱く、冷え症、貧血気味で、動悸、息切れがあり、神経過敏のものの次の諸症:更年期障害、血の道症、神経症、不眠症」と記載があります。
何が入っているの?
柴胡・桂枝・乾姜・栝楼根・黄芩・牡蠣・(炙)甘草の7薬から構成されています。
柴胡:透邪
三焦の機能が失調していることからも柴胡をもちいて邪を表へ透表します。また滞っている相火を全身へあまねく疎散します。
桂枝:辛散温通
桂枝には動悸のときに使う桂枝加桂湯のときのように上下の気機を通調する作用があります。『傷寒論』の柴胡桂枝乾姜湯のところには“未解”とあり、表証が残っていると捉えらえるため使用されています。
乾姜:温中化飲
乾姜は生姜よりも守る作用が強いものです。柴胡桂枝乾姜湯のときは身体の内側が虚している状態であるため、乾姜にて中焦を温めます。
栝楼根:生津
別名天花粉とも呼ばれます。生津の作用があり、口渇があるときによく使用されます。陽明経を潤す生薬は葛根湯の葛根に対し、栝楼根は横隔膜のなかの乾きを潤します。
黄芩:清熱
現在では“寒”として説明されることが多いですが、『神農本草経』には“平”とあり、清熱の作用はそこまで強くないと考えられます。膈のところに鬱滞した熱があり、黄芩によってそれを平じます。
牡蛎:軟堅散結
牡蛎は牡蛎の貝殻です。牡蠣には消瘰丸(玄参・貝母・牡蠣)で使用されるようにリンパの硬いものを軟らかくする作用があります。柴胡桂枝乾姜湯とつかうときは“胸脇満微結”という脇の下が固くなっている症状もみられます。括楼牡蠣散のように、栝楼根と組み合わさることで膈を潤し、上下の気機を交流できるようにします。
効果のまとめ
柴胡桂枝乾姜湯は不眠症、神経症、更年期障害、うつ、汗、パニック障害などさまざま症状に使用されます。それらの症状の原因の1つに上下の気機が行き来ができなくなっていることが考えられます。上にある気が下に降りることができなければ不眠症や精神症状となり、熱が伴ってくるとのぼせ、発汗となります。上下の気の流れが失調しているのは膈が乾き、絞りとしての機能を果たしていないからです。膈を潤しつつ、上下の気機の流れを調整するのが柴胡桂枝乾姜湯です。
ほかの漢方薬との違いは?
柴胡桂枝乾姜湯は不眠症、パニック障害やうつなどの精神症で用いられることが多いので、そのときに使われる漢方薬について解説します。
柴胡加竜骨牡蛎湯
柴胡加竜骨牡蛎湯は“ストレスや不安で眠れない方”に使用されます。柴胡は疎肝に働き、竜骨・牡蛎にて気を下に降ろします。柴胡が入っているため、“ストレス”と書いてありますが、入っている生薬の中で気に働くといえるのは柴胡のみで、竜骨・牡蛎の重たい薬にて気を鎮めます。商品の詳細を見る
半夏厚朴湯
半夏厚朴湯もよく使用される漢方薬の1つです。不安神経症などにつかわれます。半夏・厚朴・蘇葉・茯苓・生姜から構成されており、蘇葉・厚朴にて行気開鬱、半夏にて降逆します。半夏厚朴湯には枳実のような破気薬ははいっておらず、気や痰の鬱滞をほぐすことで不安神経症を緩和します。不安神経症の方に半夏厚朴湯です。商品の詳細を見る
処方箋でもらう薬とドラッグストアで売っている薬はどう違うの?
処方箋でもらうときツムラが多いので、ツムラにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
ツムラ11 7.5g(3包)中には、、、
サイコ 6.0g
オウゴン 3.0g
カロコン 3.0g
ケイヒ 3.0g
ボレイ 3.0g
カンキョウ 2.0g
カンゾウ 2.0g
医療用のメーカーごとの違いは?
大手2社(ツムラ、コタロー)の生薬量を比較してみました。2社ともつかっている生薬量に変わりはありませんでした。
ドラッグストアで購入できるものとの違いは?
ドラッグストアで売られている市販のものにはどれくらい生薬が入っているか調べてみました。
クラシエ
顆粒タイプ。医療用では販売されていませんが、市販用はありました。医療用のツムラと比べ生薬量は半分になっています。
JPS
市販の柴胡桂枝乾姜湯のなかでは一番生薬量が多いです。錠剤タイプになっており、粉が苦手な方でも飲みやすい設計になっています。商品の詳細を見る
不眠症、神経症、更年期障害、うつ、汗に柴胡桂枝乾姜湯です。