芍薬(しゃくやく)

芍薬といえば一般的には優雅な花を思い浮かべますが、漢方においてはその根をつかいます。婦人科の漢方薬において頻用される生薬の1つです。芍薬は『神農本草経』では白と赤で区別されていませんが、一般的には芍薬は補に優れ、芍薬は散に優れているとされています。



目次

現代中医学

白芍

気味:苦・酸 微寒

帰経:肝・脾

効能:補血斂陰、柔肝止痛、平肝斂陰

赤芍

気味:苦 微寒

帰経:肝

効能:清熱涼血、袪瘀止痛、清肝泄火

古典(白・赤 区別なし)

気味:苦 平<神農本草経>

帰経:肺・心<葉天士解本草>

 

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漢方においては生薬の使い方だけでなく、それ以前になぜそういう効能があるのかを理解する必要があります。『神農本草経』とそれを解説している『葉天士解本草』を照らし合わせて考えてみます。

『神農本草経』

“気平。味苦。無毒。主邪気腹痛。除血痺。破堅積。寒熱疝瘕。止痛。利小便。益気。”

『葉天士解本草』

“芍薬気平。稟天秋収之金気。入手太陰肺経。味苦。無毒。得南方之火味。入手少陰心経。気味倶降陰也。腹者足太陰行之地。邪気者。肝木之邪気乗脾土作痛也。芍薬入肺。気平伐肝。所以主之。血痺者。血澀(しぶる)不行而麻木也。芍薬入心。苦以散結。故主之也。堅積。堅硬之積也。疝者。小腹下痛。肝病也。瘕者。假物而成之積也。寒熱疝瘕者。其原或因寒或因熱也。芍薬能破之者。味苦散結。気平伐肝也。諸痛皆属心火。味苦清心。所以止痛。膀胱津液乃出。皆由肺気。苦平清肺。肺気下行。故利小便。肺主気。壮火則食気。芍薬気平益肺。肺清故益気也。赤者入心與小腸。心主血。小腸主変化。所以行而不留。主破血也。”

気平。味苦。無毒。

“芍薬気平。稟天秋収之金気。入手太陰肺経。味苦。無毒。得南方之火味。入手少陰心経。気味倶降陰也。腹者足太陰行之地。邪気者。”

芍薬は現在では苦酸・寒と説明されることが多いですが、『神農本草経』では苦・平となっています。気が平であることからも渋っているものを平らにする作用があり、それを葉天士は秋の空気が収斂している様子になぞらえて“秋収”と表現しています。

主邪気腹痛。

“肝木之邪気乗脾土作痛也。芍薬入肺。気平伐肝。所以主之。”

肝木が脾土を克する木克土になることで腹痛が生じます。芍薬は気平であり、太陰肺経に入ることで肝が行き過ぎないように平肝することで腹痛に作用します。芍薬甘草湯はこむら返りでよく使用されますが、添付文書にも書いてあるように腹痛にも効能効果があります。平肝という意味では四逆散、逍遙散のようなイライラにつかわれる漢方薬にも芍薬は入っています。

除血痺。

“血痺者。血澀(しぶる)不行而麻木也。芍薬入心。苦以散結。故主之也。”

血痺というのは瘀血によって血の流れが渋ることでしびれ、麻痺の症状があることです。芍薬は苦味であり、少陰心経に入り、心は血を主ることからも結を散じ、しびれ、麻痺につかわれます。

『金匱要略』血痺虚労病篇では血痺に使う黄耆桂枝五物湯に芍薬が入っています。

破堅積。寒熱疝瘕。

“堅積。堅硬之積也。疝者。小腹下痛。肝病也。瘕者。假物而成之積也。寒熱疝瘕者。其原或因寒或因熱也。芍薬能破之者。味苦散結。気平伐肝也。”

積(しゃく)、癥瘕のように下腹部に滞り、鬱血した塊があるのは肝の病です。下腹部にできる積(鬱結した塊)は寒、あるいは熱が原因です。芍薬はよく積を破り、苦味にて散結し、気平にて平肝します。

積の原因が寒か熱かとしていますが、『金匱要略』婦人雑病篇では寒によって鬱結した塊ができることを説明してあります。“婦人之病、因虚、積冷、結気、為諸経水断絶、至有歴年、血寒積結、胞門寒傷、経絡凝堅。”と虚したところに冷えが積もることで気を結び、生理が止まり、数年すると血が冷え、経絡が凝堅すると説明しています。そのあとに出てくる漢方薬が温経湯で、こちらにも芍薬が入っています。癥瘕でつかわれる漢方薬で一番有名なものに桂枝茯苓丸があり、こちらも芍薬がつかわれています。

止痛。

“諸痛皆属心火。味苦清心。所以止痛。”

諸々の痛みはみな心火に属します。芍薬の苦味にて清心し、止痛します。

利小便。

”膀胱津液乃出。皆由肺気。苦平清肺。肺気下行。故利小便。”

膀胱は津液がでるところです。それは肺が宣肺することで水道が通調され、結果的に三焦、腎、膀胱へと津液が流れていきます。芍薬は苦平に清肺し、肺の水道を働かせ、津液が下行することで利小便を促します。

ここでの表現からわかるように、猪苓・沢瀉の直接的な利水作用ではなく、芍薬は肺気をめぐらせることで結果的に利小便につながります。真武湯の芍薬はこのような働きで利小便に働きます。

益気。

”肺主気。壮火則食気。芍薬気平益肺。肺清故益気也。赤者入心與小腸。心主血。小腸主変化。所以行而不留。主破血也。”

肺は気を主り、壮火が気に及ぶと気が失われていきます。芍薬は気平にて肺経に入り、肺気を調え、それを益気と表現しています。人参のような直接気を補う補気でなく、芍薬は肺気を平ずることで益気します。赤芍薬は色が赤いことからも心とその裏の小腸に入ります。心は血を主り、小腸は変化を主ることからも留まらず、めぐるため芍薬は破血を主ります。

まとめ

芍薬は酸苦・寒とされることが多いですが、『神農本草経』では苦・平とされています。平じる生薬であり、肝気を平じ、筋肉の拘急も平じることからも四逆散、逍遙散、芍薬甘草湯につかわれています。血の渋りを平じることで、血がめぐらせることでしびれ・麻痺に使われる黄耆桂枝五物湯、癥瘕を散じる温経湯、桂枝茯苓丸にも入っています。

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