呉茱萸(ごしゅゆ)

茱萸(ごしゅゆ)の働きを『神農本草経』から考えたいと思います。呉茱萸は偏頭痛でつかわれる呉茱萸湯の主薬としてよく使われます。呉茱萸には独特な辛味とえぐみがあり、少しクセのある味をしています。



目次

現代中医学

気味:辛・苦 熱

帰経:肝・腎・脾・胃

効能:暖肝・散寒止痛、下気止嘔

古典

気味:辛 温

帰経:肝・肺

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神農本草経』とそれを解説している『葉天士解本草』から考察したいと思います。

『神農本草経』

“気温。味辛。有小毒。主温中下気。止痛。除湿血痺。逐風邪。開湊理。咳逆寒熱。”

『葉天士解本草』

“呉茱萸気温。稟天春和之木気。入足厥陰肝経。味辛有小毒。得地西方燥裂之金味。入手太陰肺経。気味倶升。陽也。中者脾也。太陰経也。肺主気。亦太陰也。気温則肺令下行。而太陰亦煖。所以温中下気也。寒邪客於胸腹。則真気不通而痛矣。辛温則流行和散。所以止痛也。辛温煖肺。肺気通行。則水道通調。故又除湿。血泣則成痺。肝蔵血。血温則活。故主血痺。辛温為陽。則能発散。故逐風邪。肺主皮毛而司腠理。辛温疎散。腠理自開。形寒飲冷則傷肺。肺傷則気不下降。而火反上逆。咳逆寒熱之症終焉。呉茱萸辛温煖肺。肺気下降。而寒熱咳逆之症自平也。”

気温。味辛。有小毒。

“呉茱萸気温。稟天春和之木気。入足厥陰肝経。味辛有小毒。得地西方燥裂之金味。入手太陰肺経。気味倶升。陽也。”

呉茱萸は温薬であり、厥陰肝経に入ります。西の乾燥した地域から採れるため、燥裂な辛味があります。辛味からも太陰肺経に入ります。

主温中下気。

“中者脾也。太陰経也。肺主気。亦太陰也。気温則肺令下行。而太陰亦煖。所以温中下気也。”

脾臓は中央に位置し、太陰脾経が通ります。肺は気を主り、肺もまた太陰肺経を通り、脾・肺どちらも太陰経と関連しています。呉茱萸は温薬であり、肺に入り、肺気をめぐらせ、気を下向きへめぐらせます。太陰肺を温めることで太陰脾も温まることで温中下気します。

呉茱萸の作用で知られる温中下気の説明です。呉茱萸の強烈な辛味にて肺・脾を温めることで気を降ろすことを温中下気といいます。偏頭痛でつかわれる呉茱萸湯はまさしく温中下気の方剤です。冷えによって生じる頭痛を呉茱萸の温中下気にて症状を緩和します。

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止痛。

“寒邪客於胸腹。則真気不通而痛矣。辛温則流行和散。所以止痛也。”

寒邪が胸腹に入ると真気が通じず、痛みが生じます。呉茱萸の辛温にて寒邪を散らし、痛みを止めます。

呉茱萸は辛温であるため、胸腹の痛みにも効果があるとあります。お腹の痛みを伴う生理不順の漢方薬である温経湯にも呉茱萸は入っています。

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除湿血痺。

“辛温煖肺。肺気通行。則水道通調。故又除湿。血泣則成痺。肝蔵血。血温則活。故主血痺。”

呉茱萸は辛温の生薬であり、肺を温め、気をめぐらせます。肺は水道を主り、肺気がめぐることで水道も通調され、湿を取り除きます。血が渋ることで痺を成します。呉茱萸は厥陰肝経に入ることで、蔵血を主る肝を温めることで血がめぐり、血痺に働きます。

血痺とありますが、呉茱萸をつかうことができる血痺というのは冷えが原因によるものです。強い冷えが入ることで血の流れが渋ることで痛みが生じる、所謂しもやけのような場合には当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使います。

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逐風邪。

“辛温為陽。則能発散。故逐風邪。”

呉茱萸は辛温であり、よく発散するため、風邪を追い出します。

開腠理。

“肺主皮毛而司腠理。辛温疎散。腠理自開。”

呉茱萸は温薬であり、太陰肺経に入ります。肺は皮毛を主り、皮毛には腠理があります。辛温にて疎散し、腠理を開きます。

ここでの腠理の解釈がむずかしいのですが、呉茱萸が開く腠理というのはお腹のなかの腠理だと考えられます。『神農本草経』には麻黄は“発汗”とありますが、呉茱萸は“開腠理”となっており、腠理を開くことと発汗することは意味が異なります。実際に呉茱萸を服用することで発汗することはありません。体表の腠理は開閉することで汗をコントロールしますが、腸の腠理は消化液・粘液の分泌をコントールしています。冷えによって腸の腠理が閉じ、出入りができなくなると、そこに気の鬱滞が生じます。冷えによって出入りできなくなった気は逃げ道を求めて上に向かいます。上逆した気によって頭痛、吐き気が生じます。呉茱萸は内側の腠理を開くことで、腸の腠理における気の鬱滞を防ぎ、偏頭痛・嘔吐につかわれます。そのため呉茱萸湯は偏頭痛・吐き気につかうことができます。

咳逆寒熱。

“形寒飲冷則傷肺。肺傷則気不下降。而火反上逆。咳逆寒熱之症終焉。呉茱萸辛温煖肺。肺気下降。而寒熱咳逆之症自平也。”

寒飲や冷えによって肺が傷つけられると、気を降ろすことができなくなります。気を降ろせず、反対に上逆することで咳となります。呉茱萸は辛温にて肺を温め、肺気を降ろし、咳をおさめます。

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